恋の人、愛の人。
……はぁ。だったら、本気で甘えろよ。俺は父親じゃないんだからな。
「私…とても酷い女のようなので…。そう言ってから、こんな話をしている事も、あざといと思われてしまうだろうから。言いながらも言わないのがいいのだろうと思ってますけど。
私、多分、恋は…恋というか、そういう、人を好きになるというモノは、稜との事が終わって、もうしないって、自分の心の中で勝手に決めてしまったんだと思います。…稜以外、好きになりたくないって。
だから、強く意識した事はないけど何となく一人でいいって思ってるところもあって…。こうして、例えば、お店に来た時、陽佑さんは話し相手になってくれたりするでしょ?
そしたら、それが楽しくて、…楽にさせてくれて、それはそれが良くて…。
会社でも、黒埼君が笑わせてくれる事いつもしてくれたり、話したりしてくれて…、それはそれで楽しいんです。
でも、それはこっち側の、私の感情で、黒埼君にしてみたら、それだけでいいって思ってる訳じゃなくて…」
…。俺は?俺にだって、同じように思ってくれよ。
「例えば、つき合えないって言ったら、もう楽しかったつき合い方は無くなってしまうって事ですかね…。そういう風にしか、けじめの付け方ってないんですかね…」
「…つき合うのは無理って言っといて、また元のように、何でも無かった頃に戻りましょうは、理屈として可笑しいんだよ。虫が良すぎる…欲張り過ぎやしないか?
元っていうのは、相手にはまた片思いで居ろって事だ。もっと言うなら、それより前の、本当の意味で何も無かった頃と言ったら、親しくない時の事だ。
そしたら、話す事はしないよな?親しくないんだから。…楽しく話しているのは、少なくともそこに好意があるからだ。普段、何とも思わない相手の話を楽しく聞いてるか?
せいぜい聞いてる感を出して見せてるくらいの事だ。
恋をする気がないとはっきり決めているのなら、断る。その気もないのに、長く引っ張っているのは、思わせ振りな態度を取っているようなモノだ。断った後で好きになったのなら、今度は自分から改めて言えばいいさ。…ま、その時、相手もいつまでも思ってくれてるかは解らないけどな。
一人がいいと決めているなら、そう言ってやらないと、いつまでも振り回してしまう事にならないか?
黒埼君とやらは特に。思い方だって、年下はそれだけで不利だと思ってるだろうし。
こっちから恋をする、かも知れないなんて…その気になるまで、気長に待てるだろうかな…。
…これはまた…、お節介な話だな。人の恋路を邪魔するところだった。
誰が誰を好きになろうと、どうなろうと、勝手にどうぞって話だ。
帰るっていうところを長々と話して悪かったな。
本当の意味で、誰も側に居なくなったら、寂しいと思うけどな…。それがどんだけ寂しいか…居なくなってみないと解らないだろ?…。
その事は言わなくても…梨薫ちゃんは深く経験済のはずだろ?…」