恋の人、愛の人。
「ごちゃごちゃ考えても解らないんだから、いいんだよ、別に」

「あ、えっ?」

…ふぅ。

「今日は鍵を返しに来ただけなんだろ?急に何か思いたって考えたかも知れないが…、別に自分の中に何もないんだから、考えたって意味は無い。無いんだから。
それからな、梨薫ちゃんが客だからと言って、俺は、ふ〜ん、ふ〜んみたいに、流して聞いた事はないからな。一度もない」

解ってくれたか?

「…はい」

…これでも、何となくも何も伝わらないなら、本当にただの客とバーのおっちゃんだよ。


「帰ります」

「そうか。今日はもう晩御飯は食べたのか?」

「はい。まだだけど帰ってからちゃんと作って食べます」

「そうか…じゃあ…、気をつけて帰れよ?な…」

何かあったら連絡して、と言いかけて止めた。止めた言葉は、な、って、念押しの言葉に聞こえた事だろう。

「はい、有り難うございます」

「…ん」


…はぁぁ、…もどかしい。仕方ない。向こうに全く気がないんだから…。

…はぁ。
モスコミュールなんか、頼んでくれちゃって…。
今日の頼み方は考えて頼んだようにも思えたから。
取り敢えず、仲直りするみたいに戻って来たんだなとは解ったよ。そう取っていいんだろ?

愚痴にしろ何にしろ、ここに来て話したいと思ってくれる気持ち、何に向けて、それが何を意味しているのか…何故解らないんだろう…。何も気がなきゃ別の店だっていいわけだろ?…気がついてないとかじゃなく本当に…何も思ってないのか?…。ただ他に行く店が無いだけか?
あ゙ー、…同じ事から全然考えが進まない…。

だから。気がないんだから、気がつかないんだって事なんだよ。

…甘えるために利用したって自分で言ってたじゃないか。
冷静に考えたら、好意的というよりも、こっちの気持ちを上手く利用されてるって感じにもなってるんだよな…。そうだよ。

…便利な男、か。…それだな。…その領域になってしまったんだ。
何したって…そのつもりは無いのかもしれないが、上手くかわされてる感じだしな…。
はぁぁぁ、も゛うー…。止め止め。ずーっと堂々巡りするだけだ。
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