恋の人、愛の人。
はぁ…どこにある…。
…こっちか。…あった。

…。

ドアを開けて足を踏み入れた。

「いらっしゃいませ」

…あ。声の主に…飲まれそうになった。

「どうぞ?カウンターでよろしいですね」

「あ、はい」

必然的にその男性の前に腰掛ける事になった。

「何にされますか?」

「あー、えっと、バーボンを」

「…畏まりました」

…。

「…どうぞ。失礼ですが、黒埼様、でしょうか?」

「え?はい。どうして名前を…」

まさか、梨薫さんが先回りして連絡を…。それはないか。

「すみません。…オフレコはオフレコなんですが、…何でも聞いているものですから、…直ぐ解りました」

…先制攻撃を喰らった感じだ。やはり数人居ても、この人がそうで間違いないんだ。

「それで、私にどんな用でしょうか」

それも察知されてるんだな。

「貴方は、いいんですか?梨薫さんが、何だかふらふらしていても。平気なんですか?」

「…遅くなった時、ここからの帰り道、暴漢に襲われたとか、起こりはしないかとそりゃあ心配ですよ?」

「え?」

「フ…それ以外の事は…本人に気が無いのだから、俺が気を揉んでも仕方ないですね。それでも…、男として認めさせようと試みてみたんですよ?何だか上手くいかなかったようだけど」

「え、それで、そのままでいいんですか?」

「いいも何も。好きを受け入れて貰うだけが人の愛し方ばかりでは無いでしょ。もう…これは負け惜しみですけどね。
心配しなくても、俺達の間には何も無いですから。本当に何も無い…。どうやら、ただのバーの主みたいですよ」

あるのは俺の思いだけ…可哀相な程、清いもんだ。…はぁ。
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