恋の人、愛の人。


「あ、居た。黒埼君、ちょっと」

「あ、梨薫…武下さん」

「ちょっと来て…いい?」

「は、い」

何だろう、わざわざフロアの外で。探してたって事だよな。…また休憩室に逆戻りか。


「ごめん、もう時間ないんだけど。あのね、桃子ちゃんと何かあった?」

「あー、はい、告白されて、断りました」

さっきの事なんだけど…もう伝わってるんだ。女子のネットワークは速いな…。

「あー…、それでなのね。解った、有り難う」

「えっ、もう?何かまずかったですか?」

梨薫さんは別に何もないのか。

「そんなんじゃなくて…。何だかね、黒埼君、好きになっても無理な人でしたって言ってたから」

あ、はいはい…。それは理由は何にしたって無理だろ。

「俺がちょっと、誤解するようにわざと言ったからです」

「ん、そんな事だろうと思った。友達との同居を利用したんでしょ」

「そうです。“仲良し”だって言って。そう言ったら、聞き返し辛いだろうと思って。思い込ますように言いました」

…私の事は、言わなかったって事だ…。

「…そう。もういいわ。別にそんな噂を流したりする子じゃないから。
でも、もし、黒埼君は女の子は駄目、なんて噂になってもそれはいいのね?」

「はい。別に構いません」

噂はあくまで噂の一途だ。

「私が関与する事じゃないけど、桃子ちゃん、勇気がないから言えないって言ってたから」

そんな彼女に、言わせる何かがあったって事よね。私の立場では…相談にも乗りきれない。
私が黒埼君に好きだと言われている事、知ったらどう思うかな。…あの話を聞いた日から、多少は思っているかも知れないけど…。

「それを言われても、どうする事もできません」

「うん、そうなんだけどね。だから、私は二人の事に特に関与する訳じゃないから」

断り方は違うけど、梨薫さん関与してるから断ったんですけど?

「あ、俺、部長のところに行って来ました。それだけです。
じゃあ、時間無いんで行きますよ?」

…。

あ、私も時間無いんだった。
それだけって。部長のところって言う事は、…私の事でって事よね。

「あ、梨薫さん」

「わっ、なに」

急に戻って来ないでよね。それに…近い。

「…これ、…見てください」

…何。

「…え?……ちょ、ちょっと、また、こんなモノ」

「はい。ただでは帰りません」

はぁもう…また、写真撮ってた…。
何かしてる訳じゃない。
私の寝顔だったけど。

…ん?納得していいの?
前後に何かあったかも知れないじゃない…。

「…ただではって。…何もしてないの?」

「それは、…想像にまかせます。じゃあ」

「あ、ちょっと」

してないって思ったら、してないの?…。どうだかね…。

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