恋の人、愛の人。


「…密室だからといって、壁に押し付ける事も出来ない…」

ボタンを押していた。

「直ぐ着いてしまうからとか、そんな事ではない…」

…え?

チン。…着いた。直ぐ着いた。

「…ん…行こうか」

「あ、はい」

今の呟きは?…きっと大人とは不便なモノだって、思っているのかも知れない。衝動に任せて行動すれば、エレベーターの中は…キスだって、抱きしめる事だって出来てしまう場所…。

…こうして気持ちを探ろうとすれば、…お互いにというか…出来ない事はないと思う。


いつものようにエスコートされ車に乗った。

「あまり、これ以上遅くなってもいけないが、一時間くらいなら大丈夫かな」

「はい。私は別に…。いつも遅くまで起きているので大丈夫です」

「そんな事は、何も考えず、足して言ってはいけない。そこは、はい、だけでいいんだ」

「…はい」

…すみません。男性に不用意に言ってはいけないって事ですよね。

「んん…適当に走るから。あー、ファミレスがあれば入ってみても構わないぞ?」

「…はい」

…ファミレスの話、覚えているんだ。部長的にはファミレスは平気なのかな…。聞いたら私は普通だと、また言われてしまうかな。

「…はぁ。どうした…。私がさっき、はいだけでいいと言ったから、はいしか言わなくなったのか?」

「いいえ」

…あっ、や、いいえなんて。こんな返事は、はい、しか言わないと言われた事に対する嫌がらせをしてるみたいじゃない…。

「はぁ…フ…、今のはたまたまか。たまたま、はい、いいえ、しか返す言葉がないというだけなのか。はいが注意されたから、いいえに変えたとかではないよな?」

「はい」

…あ、また…。何か言葉を足せばいいのに…。すみません。

「私の部屋に行く」

「…え゙!部長、それは駄目です」

「…フ。…何故?ドライブしていても、部屋でも、話す事には違いはない」

…駄目です。

「夜遅く、お部屋にはお邪魔できません…」

「男女だから、私が信用出来ないから?私が君を好きだからか?」

「…信用とは別物です」

「解らないな、では何故?」

「信用はあっても、…間違いがあってはいけないからです…」

「間違いとは何だ?少なくとも私にとっては何か起きても間違いにはならない。しかしそのいい方だと、君にとっては間違いになるという事だな」

言葉の意味を取り上げられたら、何を話しても取りようだ。過ちとは言ってないつもりだ…。んー?どっちも似てるか…。
今、間違いになりません、と言い返したらどうなるんだろう。

「ファミレスに寄ろう、丁度見えて来た」

「…え、あ…え?」

「はい、いいえ、以外でも話せた事だし」

…え?どういう…。
あ…なるほど。何かしら言葉で返さないといけない会話をわざとしたって事か…。言われなかったら考えもしなかった。
じゃあ、私の部屋に行くと言ったのも、そんなつもりは無く、絶対言い返す話題を選んだというだけだ…。
真剣に言い返したのに…。

「間違いは起きないよ。大丈夫だ、余計な心配は要らない。…うちには連れて行かないから」

そう言ってウインカーを点滅させ駐車場に入って行った。

「はい」

…軽い仕返しです。
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