恋の人、愛の人。
「…気がすすまない時は、止めておいた方がいいと思います」

「そういう風に君が言うかな…」

…だって。風向きが…。

「危険回避の…牽制といったところかな…」

…はぁぁ。…もう、これ以上は無理。探り合いも限界というもの…。

「信じてますから」

これで大丈夫なはず。

「信じているとは何にだ」

まだ粘ります?

「誠実さにです」

「…誠実。この場合、誠実とは何だ。気は変わるかも知れないと言ってある」

「それは…」

「変わるかも知れないという言葉に誠実なら、どんな行動になっても誠実の範囲の中なんじゃないのかな」

「それを言うなら何でもありになります」

「何でもありだな。そうだろ?誠実さは失わない」

…ん゙ー。

「酷い事をしたら…信頼はなくなります」

「…そうだな」

…ふぅ。…疲れた。

駐車場に着いた。

「部屋の前まで送る」

ドアを開けて貰い、立ち上がったところで言われた。
ここで大丈夫です、おやすみなさい、有り難うございました、その何も返さなかった。
それはつまり、この場が別れる場所では無いという事にもなる。

エレベーターに乗った。二人でだ。

着いて部屋の前まで歩いた。

「有り難うございました。ご馳走になりました。
おやすみなさい」

「…あぁ、おやすみ」

鍵を探して取り出し鍵穴に差し込んだ。…あ。
その手を後ろから鍵ごと握られた。…え?

「…開けるのか。部屋に…帰りたいか」

部長?…。右の耳の上から低音が響いた。
背中から伸びた左手がドアにつかれていた。囲い込まれるような姿勢になった。
動けない…振り向く事すら出来ない。

「もうここまで…帰って来てます。…部屋に入りたいです」

…。

どうしよう…体が熱く、脈打ってきた。
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