恋の人、愛の人。
「…はぁ。…自分がもどかしくて堪らない。…はぁ、ごめん…帰るよ。何だか訳の解らない事をしてすまなかった。おやすみ」
「…はい、…おやすみなさい」
…。はぁ、…。
ドアについていた手は離れ、握りしめられていた手もゆっくり離された。
差し込んでいた鍵が抜け落ちた。
しゃがんで拾って立ち上がると身体を回されて抱きしめられた。……部長。
「…はぁ。…これだって、何してるんだって思われているかも知れないな。…まだ、これだって…何もかも…、とにかく早いんだ。君にはまだ、平穏な日常が必要だって、頭では解っているつもりなんだが…」
「部長…」
「ただ会いたい、は、嘘ではない。堪らなく会いたい。ゆっくり少しでも長く会っていたい…だから会いたいのは嘘ではない。だけど、会ってしまうと気持ちがどうしても揺らぐ。…揺らされた。自分で決めた事が守れなくなってしまう。そっとしておきたいのに、出来なくなるんだ」
「…部長は、稜よりいくつ先輩ですか…」
突拍子もない質問だ。
回されていた腕が離れた。
「ぁ、ああ……二つ上だ。君は…はぁ、…上手いな…」
上手いな?…?…。
「え?あの、では、39歳という事ですね」
「…フ、あぁ…そうなるな…」
稜の名前をわざわざ口にして歳を聞くとは…。何も出来なくなるじゃないか…。はぁ。
「ふぅ…歳を聞いてくれたお陰で…これで帰れそうだ。今度こそ、おやすみ」
「え?…あ、はい、おやすみなさい。あの、気をつけてお帰りください」
「あ、ああ、…有り難う、…おやすみ…」
部長がエレベーターに乗る迄見ていた。
乗った部長はこちらに背中を向けたまま、向き直らなかった。
箱が降りて行った。…帰ってしまった…。
はぁ…、部長のもどかしいという思い…。
私自身は何もかもがもどかしい。
「…はい、…おやすみなさい」
…。はぁ、…。
ドアについていた手は離れ、握りしめられていた手もゆっくり離された。
差し込んでいた鍵が抜け落ちた。
しゃがんで拾って立ち上がると身体を回されて抱きしめられた。……部長。
「…はぁ。…これだって、何してるんだって思われているかも知れないな。…まだ、これだって…何もかも…、とにかく早いんだ。君にはまだ、平穏な日常が必要だって、頭では解っているつもりなんだが…」
「部長…」
「ただ会いたい、は、嘘ではない。堪らなく会いたい。ゆっくり少しでも長く会っていたい…だから会いたいのは嘘ではない。だけど、会ってしまうと気持ちがどうしても揺らぐ。…揺らされた。自分で決めた事が守れなくなってしまう。そっとしておきたいのに、出来なくなるんだ」
「…部長は、稜よりいくつ先輩ですか…」
突拍子もない質問だ。
回されていた腕が離れた。
「ぁ、ああ……二つ上だ。君は…はぁ、…上手いな…」
上手いな?…?…。
「え?あの、では、39歳という事ですね」
「…フ、あぁ…そうなるな…」
稜の名前をわざわざ口にして歳を聞くとは…。何も出来なくなるじゃないか…。はぁ。
「ふぅ…歳を聞いてくれたお陰で…これで帰れそうだ。今度こそ、おやすみ」
「え?…あ、はい、おやすみなさい。あの、気をつけてお帰りください」
「あ、ああ、…有り難う、…おやすみ…」
部長がエレベーターに乗る迄見ていた。
乗った部長はこちらに背中を向けたまま、向き直らなかった。
箱が降りて行った。…帰ってしまった…。
はぁ…、部長のもどかしいという思い…。
私自身は何もかもがもどかしい。