恋の人、愛の人。
「…こんばんは」
「いらっしゃい」
「何か、お任せでください」
「畏まりました」
…はぁ。いつものように、陽佑さんの前に腰掛けた。
「…解りやすいな」
「ぁ…すみません、…もう…」
ただ飲みに来たんじゃないって思われてる。
「で、何か、悩み事?」
「悩み事というより、何だか…よく解らなくて」
それが悩み事っていうんだけど、そう思われたくないってことか…。
「それでは俺にも解らないな。…元の生活に戻ったはずなのに、何かしっくりこないって事か…はい、どうぞ」
「そうなのかな…。有り難うございます」
「完全な元って事でもないか。…落ち着いたのは落ち着いたのか?」
「うん…稜の事は…涙が溢れてどうしようもないとか、…そんな思い方はなくなったと思う。それは大丈夫かな…」
「そうか。…いいところにしまい込めたか」
「うん、多分。…いいのか、悪いのか…一緒に居るような感覚で居ます」
「それも、いい意味で、薄れていけるといいんだけどな」
そうでなければ、ずっと他には目を向けないままだ。それでいいって思ってしまう。部屋も変わってないっていうのも…またずっと思ってしまう元なんだがな…。
「んー。自然になるでしょうか」
「なるんじゃないかな。…まだ、亡くなった事を知ってから日も浅い訳だし。思うのは普通だと思うよ」
「…う、ん」
「言ってるだろ?無理する必要はないさ。何ていうか、心の問題はコントロールするのって難しいだろ。なるようになるさ、くらいに思ってたらいいんじゃないのか」
「…はい」
「それで?他には?」
「あ、…うん。私、仕事中に私用メールなんかした事なかったんですけど…何だか…」
ブー、…。
「あ、ちょっとすみません」
「あ?あぁ」
…黒埼君だ。
【昼間の事、気にしてるんじゃないですか?やりとり出来る状況だったからしたんですよ。こっちの仕事には問題なんてなかったですからね】
…はぁ。何このタイミングで。
「…何だか、慰められてる気がする…」
「ん?」
「あ、メール、黒埼君からで…。その話してたメールの事でなんです。問題ないって」
「…へえ」
フォローらしき事が出来てるって事か。
「最近、見てると似てきました…。それも弟だと思って見てるのかも知れませんが。きっとそうですよね。兄弟だって知らなくてもどこか似てるのは似てたはずなんですよ、元々。
稜に会った年齢に近くなって来たからなのか、単に大卒の、まだどこか可愛らしい雰囲気だったのが、年々抜けて来たからなのか…」
「そりゃあ、男も、いつまでも頼りない印象のままで居る訳ないさ。若いなりにも歳は取るし。仕事で色々と経験もしてくれば変わって来て当たり前じゃないか。いいか、黒埼君は男の子じゃない。男なんだぞ」
「…そうですね」
本当に解ってるのか…馴れ合って、いつまでも楽しいままでは居られないんだからな。
「はぁ…すっきりしない…」