恋の人、愛の人。
ここからタクシーでなんて帰ったら…とんでもない料金が発生してしまう。
「タクシーは無理です。夕日は見ます。でも帰りは自分で帰りますから」
「言葉が足りなかったわね、大丈夫よ、タダだから。料金は発生しないタクシーなの。でもね…梨薫さんが帰りたい時間に間に合わないかも…待てる?絶対来るから、待ってみる?」
…どうしたらいいの。
「あの、それなりの料金を払わせて頂くのであれば待ちます。タダという訳にはいきません」
「そこら辺は運転手と話して?じゃあ、手配しておく事で、いいわね?」
「は、い」
何だかよく解らないけど。
「…フフフ。私達の頃はね、あっしー君て、居たのよ?年代が違うからピンとこないでしょ、解らないわね。あまりに暗くなったら待たずに帰ってね。危ないから」
「あ、はい」
何も連絡もつけずに帰っていいのかな。
「じゃあ」
「はい…」
困ったな…そこそこ日没の後、待ったら暗くなりますけど。この前の時も特に恐い目に遭わなかったから、大丈夫かな。
陽佑さんも変なお兄ちゃんは居ないからって言ってたし。
さて…陽佑にメールしますか…。
【盆暗息子。援護射撃してあげたわよ。必ず日没迄に海に来る事。来なけりゃ“彼女”の身が危ないわよ。馨】
はい、送信。あ、見ないといけないからワン切りもしなくちゃね。
ブー、…。RRRR。
お、何だよ、忙しないな。
…何だよ…これ。
RRRRR、RRRRR、…。
「何だよこれ…どういう意味だ」
「その通りよ。来てるわよ、武下梨薫さん。夕日見て帰るみたいだから来たら?」
「来たらって、何、勝手な事…」
「来なかったら彼女、危ない目に遭うかも知れないわよ?タダでいいタクシー、呼んでおくからって言ってあるから、じゃあね。…そっとしておいてあげる事も大事だけど、…嫌われてないようだし、もっと踏み込みなさいよね。…全く。他の事は何でも積極的なくせに、本気のモノには怖じけづくんだから。彼女の中の、貴方の存在が薄くなっていくわよ?」
何を、知ったような事…。とうに、あって無いような存在だよ…。
「…大きなお世話だよ」
「そうよ。大きなお世話よ。小さなお世話じゃする意味がないでしょ。とにかく、心配なら早く来て様子を見てなさい」
…。
「…心配だから行くけどな」
「お願いね、じゃあね」
「はいはい」
…はぁ、…本当、余計な事を…。