恋の人、愛の人。
着ていた物をまた着たくなくて、バスタオルをもう一枚拝借する事にした。
身体を拭いた。新しいタオルを身体に巻き付けベッドに腰掛けた。
はぁ…。まだそんなに遅い時間でも無い。
陽佑さんがいつもより早くしまった事もある。
部屋の明かりを消してベッドに入った。
何となく、洗濯された洗剤の香りだと思う、フレッシュグリーンの香りが仄かにした。白いシーツ…さらさらして気持ち良かった。
テレビの小さなリモコンを枕元に置き、観ているような観ていないような…漠然とした視線を送っていた。
…ん…。
あれ?うちに居る。いつ帰って…。
…あぁ、違う、これは夢なんだ…。
私が居る。キッチンでご飯を作ってる。…こんな…映像を眺めているような夢の見方ってあるのかな…。私、起きてるのかな…?
はっきりこっちから私が私を見ている。
カチャカチャ。
あ、帰って来た、って思ってる気持ちが見ている私に連動してる。…私だから?
廊下をそーっと足を忍ばせて近づいて来てるのが解った。
「ただいま…梨薫」
長ネギを刻んでいた私の後ろから腰に腕を回す。声…腕、この香り…感じる。間違いなく稜だ。…稜。
「わっ、稜、危ない…。いつも言ってるのに。…お帰りなさい、お疲れ様」
会話してる…。ただいまって、稜の声。はっきり聞こえる。
「大丈夫。危なくないとこ抱いてるだろ?…」
首に少し唇が触れた。微かな、でも確かな感触…。
ドキドキしてる。
「…手、前に出したら駄目よ?」
肩に顎を乗せて、少し横に動いても、合わせて一緒に移動する。
…はぁ…懐かしい。何だろうこれ。帰って来た時、稜がよくしてた。二人きりの空間だからこんな恥ずかしい事が出来たんだ。
「解ってるよ。今日、なに?」
「何だと思う?」
「エビチリ、だと嬉しい」
下拵えをしてあるエビが見えていた…。
「当たり。エビチリです」
あ、こんな事も、確かにあった…。
「風呂、先に入るよ」
「うん」
「……梨薫…俺さぁ…」
「…何?」
声が小さくなって来て私には聞き取れない。
あっ…。映像が暗くなってきた。
目が覚めてしまった。
…はぁぁ…何時…。
…稜。