恋の人、愛の人。


着ていた物をまた着たくなくて、バスタオルをもう一枚拝借する事にした。
身体を拭いた。新しいタオルを身体に巻き付けベッドに腰掛けた。

はぁ…。まだそんなに遅い時間でも無い。
陽佑さんがいつもより早くしまった事もある。

部屋の明かりを消してベッドに入った。
何となく、洗濯された洗剤の香りだと思う、フレッシュグリーンの香りが仄かにした。白いシーツ…さらさらして気持ち良かった。

テレビの小さなリモコンを枕元に置き、観ているような観ていないような…漠然とした視線を送っていた。


…ん…。
あれ?うちに居る。いつ帰って…。
…あぁ、違う、これは夢なんだ…。

私が居る。キッチンでご飯を作ってる。…こんな…映像を眺めているような夢の見方ってあるのかな…。私、起きてるのかな…?
はっきりこっちから私が私を見ている。

カチャカチャ。

あ、帰って来た、って思ってる気持ちが見ている私に連動してる。…私だから?

廊下をそーっと足を忍ばせて近づいて来てるのが解った。

「ただいま…梨薫」

長ネギを刻んでいた私の後ろから腰に腕を回す。声…腕、この香り…感じる。間違いなく稜だ。…稜。

「わっ、稜、危ない…。いつも言ってるのに。…お帰りなさい、お疲れ様」

会話してる…。ただいまって、稜の声。はっきり聞こえる。

「大丈夫。危なくないとこ抱いてるだろ?…」

首に少し唇が触れた。微かな、でも確かな感触…。
ドキドキしてる。

「…手、前に出したら駄目よ?」

肩に顎を乗せて、少し横に動いても、合わせて一緒に移動する。

…はぁ…懐かしい。何だろうこれ。帰って来た時、稜がよくしてた。二人きりの空間だからこんな恥ずかしい事が出来たんだ。

「解ってるよ。今日、なに?」

「何だと思う?」

「エビチリ、だと嬉しい」

下拵えをしてあるエビが見えていた…。

「当たり。エビチリです」

あ、こんな事も、確かにあった…。

「風呂、先に入るよ」

「うん」

「……梨薫…俺さぁ…」

「…何?」

声が小さくなって来て私には聞き取れない。
あっ…。映像が暗くなってきた。

目が覚めてしまった。

…はぁぁ…何時…。

…稜。
< 21 / 237 >

この作品をシェア

pagetop