恋の人、愛の人。
解った事がある。黒埼君もだけど、部長も。私をそっとしておいてくれようとしている事だ。
確かに気持ちは言われてるし、直後は色々とあった。
黒埼君は今は朝、会社で会って挨拶をして、仕事の話をして、それに関わらない他愛ない話をして…わーわー言って…。以前と変わらない。
部長は、出掛けるところや帰社したところを偶然見掛けない限りは、顔を見る事がなくなった。朝、廊下で会う事もない。
私は、自分の部屋での生活が安定している為、通勤して来る時間に変化もなくなった。
元と同じ時間でほぼ毎日来ているつもりだ。
部長は、あれだけ、会って挨拶をする時だけが唯一の…みたいに言っていたのに。それすらないというのは、意識して会わないようにしているとしか思えない。
それは、恋愛においての引く部分なのか、それとも、本当に完全に引いてしまったのか…。
そして、いつも変わらないのが陽佑さんだ。
それは、職業柄だという部分もあるとして…それでも大きな波がある事もなく、変わらず接してくれている。
「こんばんは」
「おぅ、いらっしゃい…久し振りだな」
「はい」
「本当…解りやすいよな」
「はい?」
「特に何もなければぱたっと日を空けて来ないし、こうして来た時は、何かある時だ」
「…もう…帰ろうかな…」
「フ。図星だったか」
本当…、解りやすいからな、梨薫ちゃんは。
「…返事さえする気も失せました…はぁ。もう…陽佑さんは、というか、私が解り易い行動をしているのか…」
「そうだって言ってるだろ?」
「…うん」
「それで?何があったんだ?」
「何も。…何もありません。突発的な出来事もないですよ。……ないといけないはずの事まで…ずっと、なくなっています」
…なに?
「…無いのか」
「え、はい。ないです」
「黒埼君か…いや…そんな勇気はまだないな、やはり部長かぁ…」
「え?」
部長だけど…何で解るんだろう。
「どっちなんだ…」
「え?部長の事ですけど」
「部長さんにしては随分無責任だな。いや、責任を取るってことか…」
え…どっちって、な、に…?無責任?…責任を取る……?
「…あっ。え゙、ちょ、ちょっと、何か、待って…違いますよ?違う違う。勘違いです、そんな話じゃ…ないって」
「他にも居るのか…」
…違っ。
「居ません。とか、そうじゃないです、違いますって!無いって…生理が無いとかの話じゃないんです!」
元々静かな空間なのに、シーンとしてしまって…。……。あ。…や、恥ずかしい。口を押さえた。聞こえなかった振りをしているけど、他のお客さん、…ほぼ男性客の耳に…響き渡ってしまった。
「……もう、違いますから。…すいません、…お客さん居るのに…こんな事……大きな声で…。そもそも、陽佑さんが…」