恋の人、愛の人。
…はぁ。店を出て歩きながらメールをした。
【少し聞いて頂きたい事があります。都合のつく日はありますか?】
長い話ではないけど、言葉で、声で言っておきたいと思った。
…。
ん゙ー。まだ仕事中かな。難しそうかな…。
今だって、メールを確認出来る状況にないのかも知れない。
だったら、いつだとしても面と向かっては中々伝える事さえ無理なのかな…。
要件は伝えたい。仕方ない…メールで伝えておこうか。
【部長にも言われたかも知れませんが、私は部長がどんな人なのかをよく知りません。知らないのに好きだとか、考えるところに辿り着けません。だから、知りたいと思います。部長を知る事から始めさせてください】
…ふぅ、こんな感じでいいかな。友達から始めましょうとよく言うけれど、あれは…友達になってしまったら、もう友達だと思う。…逃げの言葉だと思う。
だからそれは違う気がする。…屁理屈かな。つき合うかどうかの為のおつき合いをしましょうで納得出来るような気がする。
これはこれで、ある意味前向きな言葉にもなってしまうけど。
ブー、…。あ。『ハルちゃん』、部長だ。
【今どこからだ?部屋?
いつと言わず、今からでも大丈夫なら俺の方は構わないが】
ブー。あ、また『ハルちゃん』だ。
【どうやら要件は済んでいたようだな】
私の送ったメール、ちょっと間が空いていたから…。
【俺も梨薫の事、もっともっと知りたいと思っているよ】
部長…俺とか、…梨薫って…、呼び捨てだとか…。
【私、今、外なんです】
【どの辺りなんだ?】
【…表の通りに出たところです、と言えば解りますか?】
【解った。危なくないように、以前送って行ったところ辺りに居てくれ、直ぐ行くから】
【はい】
はぁ、これだけでバーの方の表通りだと解ったんだ。…はぁ、…部長の直ぐって、多分、言葉通り、どこからだって直ぐなんだろう。そんな人だ。
こんな…、急な事になるなんて…。でも、何かしら連絡したらこうなるだろうとどこかでは思っていた。
ドキドキする、胸が…苦しいくらいドキドキする。
部長は…それだけ会いたかったって事…。
…あ、…来た。
ハザードを点滅させながら路肩に寄せると停まった。
ドアが開いて部長が降りて駆け寄って来た。