恋の人、愛の人。
・その気持ち、要確認
「はぁ、大丈夫だったか、何も無かったか?」
少しスパイシーでムスクの香りが微かにした。この香りは部長だと認識させてしまう…。
「はい、大丈夫です。心配し過ぎです」
「はぁ、良かった。こんな場所で待たせてしまったと、後になって後悔したから」
降りて来てそう言う部長は…なんて言ったらいいのか、いつもの部長らしくなく慌てているし、焦っているようにも見えた。だけど、私が言うのも変だけど、顔はどことなく嬉しそうに見えた。
「そんなに待っていませんよ?通りは普通に車も走っています。明るいです。だから大丈夫です」
「通り魔に遭うかも知れない。立っているところに車が突っ込んで来るかも知れない。とにかく何があるか解らないだろ?」
「そうですね。それを言ったらどこだって危ないです。
では“今回は”大丈夫でしたという事です」
何かあったとしたら、こうしてここには居られていない。何かあったら、取り敢えず必死で連絡はしようとするだろうけど。……ぁ。
「はぁ…、車に乗ってくれ。ぁ…構わないよな?」
「え?あ、はい」
…あ。手を握られた。
「…あ、あぁ、…すまない」
慌てたように手を離すと助手席のドアが開けられた。お礼を言った。ゆっくりと慎重に腰を下ろし足を入れた…。完全に乗った事を確認してドアが閉められた。
部長も素早く乗り込んで来た。
「話は…梨薫の伝えたかった事は、もうメールで済んでしまったよな…」
話しながらもまだ車は動き出さない。
「はい、そうなりましたね。…本当はこんな風に会って、口で言いたかった事でした」
「嬉しかった…メールが来ただけで、ただ嬉しかった…」
左手が動いて私の顔の横で一瞬止まった気がしたが、触れる事は無くさっと戻された。…部、長。
それはやっぱり、部長は自分から連絡しようとする事はしていなかったって事ですよね。
「どうしようか。用は済んでしまった」
あ…私に委ねられたのだろうか。
「俺の」「…私の」
あ、…。一つ一つ、会話がたどたどしい。
「俺の部屋に行くか?」
私が言おうとした事と意味は同じ事だ。
「私は…私の部屋に行きますか、と言おうとしていました」
「…同じ事だな。では、私の部屋に行こうか。いいかな?」
「…はい」
…はぁ、…同じ事だけど違う。部長の部屋の方になってしまった。
そう意識しただけで緊張が増した。
「あ、あの…」
どうしよう…急にドキドキしてきた。
部長は安全確認をすると車を出した。
「大丈夫だ。行くぞ?」