恋の人、愛の人。
「部屋で…心配しているような事はしない」
今、多分…手を握ろうとしたのだろう。左手がハンドルから離れてこちらに伸びたところで止まると戻った。
「…だけど、それに関しては信用は無いのかな。私は君の部屋で…ちょっと、…してしまったからな。だが心配はしなくていいから」
ドキドキしていた。改めて言われて、部屋で部長に何度もされたキスが過ぎった。
「あ、あの、話を。話をするだけですから」
「…そうだな。ご飯は済んでいるのか?」
「え?いえ、まだです」
「…ふぅ。では…図々しいお願いだが何か簡単な物でいい、作ってくれないか。私もまだなんだ。一緒に食べよう」
「え?はい、解りました。あの、材料は…」
「んー、ある物で、何とかなるかな。帰って見て考えてくれないか?」
敢えて有り合わせでって事なのかな。
「はい。頑張ってみます」
「あ、駄目だったらマンションの横、コンビニがあるから」
…。
「はい」
じゃあ初めからコンビニの物で何とかするとかでいいのでは?…はぁ。
「米はあるから」
「あ…はい、解りました」
じゃあ…おむすびでもいいのか…フ。
部長のマンションの部屋に入り冷蔵庫を開けて覗いた。
…なんだ。これだけあれば充分、何でも作れる感じ。大丈夫そう。
「…部長、最近は料理されてるんですか?…色々…揃ってますね」
大量ではないけれど、野菜もお肉もあった。
「あ、あぁ。…ちょっと着替えてくるから」
「はい。私は作ってます」
「うん。頼む」
部長は奥の部屋に入って行った。
まず、ご飯。先にセットしてスイッチを押した。
直ぐ着替えて戻り、手伝おうかと言う部長の申し出は丁重にお断りさせて頂いた。
アスパラと鶏肉の炒め物、大根と卵と豚肉の煮物。お味噌汁と、漬け物。
これだけを作ってテーブルに並べた。