恋の人、愛の人。


テーブルを挟んでご飯を食べるのは食べ辛いので隣に座らせて貰う事にした。それでも緊張した。…変な緊張感。

「何だか…社食で席が無くて、隣で食べてるって感じです」

言い訳みたいな会話。他に人が居なくて横並びって、味気無くさせてるかも…。

「フ、…部長、だからな。そこは社食なら、隣になってしまったが仕方なくという状況だな」

「あ、そういうのとは違いますから」

向かい合っては緊張してしまうからと言ったら、同じ事だと言うかな。

「そうか」

…微妙だったかな。

「あの、私…すみませんでした」

箸を置いた。お茶を少し飲んで、膝に手を置いた。

「ん?何がだ?」

…部長の箸が止まった。ご飯はほぼ終わりかけてはいた。

「上手く言えませんが、私の気持ちというか、どうしたいのか、何も返答をしないままで、ずっと曖昧にそのままでいて…」

部長も箸を置いた。左にあった湯呑みを手にした。お茶を口にした。

「それは別に構わないところだと思う。私は私で自分の気持ちを伝えておきたかったから言った。言っておかなければ、知られる事は多分無い。…そういう気が今までなかった人に、印象付けはしておかなければ何も始まらない。だから…突然言われた側としては、色々と何かされても戸惑いしかなかったよな。…押し付けでしかない。それがこの前迄、私がした暴走だ。
こうして、知る事から始めたいと言ってくれた事、君の心が落ち着いてきて、他の事を考える余裕が出て来たという事なのかなと思った。
私は解り易い事をしていた。…自分に無理をして我慢して、小さいだろ?
朝、君に会わないようにした。あの僅かな時間は私の唯一の楽しみだったのにな」

もしかして、それに気づいて、それがどういう意味かを推し量って、もう一歩…、気づいただけではなく、私が私から部長室を訪ねていたとしたら…。
それは私のはっきりした気持ちの現れだと。それをじっと待っているつもりだったのかも知れない。

ここに来る前…車に乗ろうとした時、手を握られた。部長は慌てて離した。
それは、知る事から始めようという事になったから、今は少しでも…触れる事はしないという事かも知れない。
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