恋の人、愛の人。


「ご馳走様。美味しかったよ、有り難う。浅漬けも美味しかった。
ちょっと望みも叶った」

「え?」

「いや、…やきもちだよ」

食器を片付けていた。
シンクに運びながら部長がそう言った。

「黒埼ばかりが君の作った物を頂いていたと思ったら妬ける。
珈琲でも入れよう」

あ。……。
洗い物を一緒にしていた部長がエスプレッソマシーンに豆を入れた。
水を入れ調節していた。

「普通にブラックでいいかな」

「はい」

どうやら部長もエスプレッソではないようだ。カップを二つ用意していた。
黒埼君がうちに泊まっていたから毎度ご飯も一緒にしていたと思ったのだろう。実際はそんな事はなかったのだけど。
珈琲の香りがしてきた。


「あっちに持って行っておくから」

「はい、有り難うございます」

手を拭いてついて行った。

リビングのソファーは一人掛けの普通の高さの物と低めの長くて大きなソファー。
長いソファーに二人で腰掛けた。
部長の腕が動いて後ろに回る気配がした。肩に触れる前に引いたようだ。
触れる事は無かった。

「…帰りは送るから」

「あ、自分で帰れます」

「それは駄目だ、心配だから。大丈夫だ。送り狼にはなったりしないから」

「あ、…そんな意味ではないんです」

「帰る…、送る時間も一緒に居られるだろ。だから送らさせて欲しい」

「車の運転は…お仕事の疲れとか、大丈夫ですか?」

「そんな大した距離も無いし、それに、私はそれ程年寄りという訳でも無いぞ?」

…あ。ん゙ー、別に年寄り扱いした訳では全然ないんだけど。

「…ふぅ。大した距離でも無い、か。それも今は、距離が少しでも長い方がいいと、つい思ってしまうな…」

つき合っているなら早々帰ったりしないのだろうけど。…帰らないのかもね…。
何だか…、ドキドキする事、自分から想像してしまった。

「黒埼とは、どういう風になってる?」
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