恋の人、愛の人。


「…黒埼君は…どうしても可愛く思えてしまって。それをそのまま伝えてはいます。
黒埼君は今はそれでいいからって言って…。そんな事を…繰り返しています。
結局、何ていうか、馴れ合って、じゃれ合ってしまいます。
それは何ていうか、入社した時からずっと凄く慕ってくれて、私にとっては…特別枠みたいな…そんな考え方も可笑しい事だとは思っているんですけど…。
黒埼君に対しては、それが酷い事をしている事になってますが」

慕っていたのは好きだったから。
稜の弟だという事を隠してもいた。だから、普通に居られた。

「…もし、あいつが死んで無くて、今頃、君と結婚をしていたとしたら、きっと君は君の立場で、黒埼の事が可愛くて堪らない弟になっていたのかも知れないな…。それは黒埼的にはどうだったか解らないが。
現実を受け止めて、諦めざるを得なかったかも知れないし、…気持ちをぶつけて来たかも知れない。
今と違って稜が居る訳だから、君はそんなに悩む事も無く断っていただろうね」

そういう風に考えてみた事は無かった。
そうよね。稜が居たら、黒埼君も気持ちを打ち明けたかどうかは解らない。
もし言われたと想像したら、やはり好きな人の弟としか見られないと言ってしまっていただろう…。多分、即答していた。曖昧に…あやふやになんてあり得ない。

では…部長は。…あ。
顔を上げて部長を見たら、部長も私を見ていた。
直ぐ目を逸らしてしまった。…やっぱり見られると恥ずかしい。

部長は奥さんと揉めても、冷静に婚姻生活を続けていたかも知れない。…いや、これはまた、好きだと言われているから勝手にそうあって欲しいと思う私の驕りだ。

「稜が生きていて、二人の関係に変わりがなく…結婚していたら、私は君に気持ちは言わなかったよ」

…うん。…そうだろうと思う。

「だが、離婚は変わらずしたと思う。努力して婚姻生活を続けるだけの暮らしはお互い虚しい…。君が結婚したのなら、私は一人になった」

それは…どういう…。

「…君以外、他には居ないという、誰にも解らない私なりの表現だよ…」

…そういう意味。部長…、話の中でずっと思いを押してきますね。でも、そういうつもりだったという事は解った。


「…遅くなるから、そろそろ帰らないといけないな。…送ろう」

「はい」

「これからどうする?…」

…え?
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