恋の人、愛の人。
マンションの下での別れ際、明日から朝、また会えるように出社する事にするよ、それから、遅い時間になってしまうが食事にも誘うというか呼び出す、それから、くだらなくてもメールをするから、と言われた。
心持ちの違いだけだとは思う。こういうのは好きでつき合っていたらする事でもあるんだ。同じ事をしても好きかそうでないか、それだけの違いだ。
知る事から始めようと決めた事で、部長はちょっとした触れる事も、避けようとする事もしないと決めたようだ。帰り際、今夜は抱きしめられる事は無かった。
…稜。どれだけ心配してくれていたのか…。いいよね?アプリは削除してしまうからね?私、大丈夫だから。
マンションに入ろうと俯き加減で歩き出した。
「梨薫さん」
「わ、黒埼君…」
「出掛けてたんですね」
「あ、うん。もう、びっくりしたじゃない、…居るなんて思ってないから。また、追い出されたとかじゃないでしょうね」
「違いますよ…デート、ですか…」
マンションに入る手前で鉢合わせたようになった。
「え?デートとはちょっと違う。あ、黒埼君はどうしたの?」
少しアルコールの匂いがしていた。
「俺は、ちょっと飲んだ帰りです…。寄ろうかなと思ったら会いました。……嘘です。部長と一緒かも知れないと思ったから、帰って来てるのか確かめに。居なかったら待ってようと思って来ました」
…。出掛けていた事をデートかと勘繰られ、誰かと居た…部長と一緒だと思われるって…お酒飲んでるし、どこで仕入れた情報だろ…。
「そんな、見張るような事…。帰らなかったら、また…」
「夜中になっても帰って来なかったら、電話架けまくって妨害しようと思ってました。…何かあったら嫌だから」
…。もう…何言ってるんだか…。
「なんかあったらって…あのね…何も無いし、それにそんな事してもブーブー振動してるだけよ?」
「だとしてもです。気を散らす事は…出来ます」
「はぁ…電源切ったらどうするの?」
「あ、……嫌な絵が浮かびました。梨薫さんが携帯を確認しようとしたら部長が横から手を伸ばして取り上げて切ってるところ…」
どういうシチュエーションを想像してるのよ…。
「…大丈夫よ。っていう言い方もどうかと思うけど、こうして帰って来てるでしょ?そんな事はないから。短い時間、話をしただけだから」
…何か、…詰めた話をしたのだろうか。
「…部長にするんですか?…」
あ、…。またそんな顔をして…。
「そんな事…解らないから、まずは…もっと人物を知る事にしたの」
「それって部長に興味を持ったって事ですよね」
「…よく知らない人に好きだと言われても…困」
「だから。それが、…好きって事なんじゃないですか…」
「え?」
「何とも思わない人には、解らないって気持ちの場合でも、好意を持たれようと、さっさと断るはずなんです。思われても困る、迷惑だから。俺が桃子ちゃんに言ったみたいに。でも梨薫さんは部長に興味を持ったんです」
………、あ。
「…何に興味を持ったか、惹かれたかは、俺には解りませんが。兄貴の親友だから、どんな人だろうって、そこからかも知れない。実は…前からいいと思っていたのかも知れない…」
「黒埼君あのね、確かに…、昔から部長の事は素敵な人だと思ってたのは確かよ?」
「梨薫さん…じゃあ…」