恋の人、愛の人。


「はぁ…陽佑さん…」

「どうした、戻って来るなんて」

「もう…俺駄目です。何者にもなれない…」

「…どうした…。まあ、座れよ。
急に無理したのか?」

「…はい。言わないでって散々止めていたのに、自分から弟としか思えないんでしょとまで言ってしまいました。
でも、その…無理しない自分では、受け入れられて貰えないだろうし…解ってるけど、どうしても衝動で抱きしめたりして。
あ゙あ゙、も゙う…だからって、好きって思う気持ち、抑えられないし、諦める気持ちにもなれないし。でも…」

「まあ落ち着け。
これ以上、欲を出さなければ、現状のままで居られるさ」

「……え?」

「それを望まないのはよく解ってるよ。
普通に甘えて…可愛いと思って貰えてる。
その、変わらないつき合い方でもいいなら、多分、…好きだった人の弟として、一生つき合っていける」

…。

「気持ちは言ってしまってる。どれだけ抑えられない気持ちかも知られてる。……受け入れてもらえない、何も出来ないって、そこは苦しいよな」

…。

「だけど、何も出来ないっていっても、ちょくちょく抱きしめたりはしてるだろ」

「…はい………つい」

「フ。それだって、何とか許して貰えてるだろ」

「はい。一応」

「フ、だろ?…それに。何もしてない訳じゃないだろ?どうだ?」

「…はい」

「俺はキスなんてしてないんだぞ?」

「え?はい。え、はいじゃない。俺は…はい。…しました。しても貰いました、ちょっとだけ」

……何?ちょっとってなんだ。ちょっとするってなんだ。…。

「まあ…それでよしとしたらどうだ?多分これからも、抱きしめたってちょっと怒られるくらいで許してくれるさ。愛情表現のハグですって言えばいいさ。君なら許される。許される理由をあまり深く追求するな。
…それ以上は無理だ。敢えて言わないが」

梨薫ちゃんが逃げずに越える事が出来ればな…。それだけ、この男でないと駄目だと思うくらいの強い思いならだけど。…はぁ。
巡り会わせというか、残酷だよな…。
せめてもっと早く生まれていたらとか、弟じゃなかったらとか、…だけど、それはどうにもならない事だ。本当…不条理だな…。
弟だったから、梨薫ちゃんを知る事も出来たんだから。
同時に…部長さんという存在もなければな…。

梨薫ちゃんが帰ってから、かなり後で黒埼君は店に来た。
誰にとは言わなかったが、呼び出されたみたいだったぞって、言ってしまったからな。
…慌てて帰った。そしてまた、こうして来た。
可愛いもんだ、本当に。好きという事に正直で。
だからどうしても可愛いんだよな。
< 224 / 237 >

この作品をシェア

pagetop