恋の人、愛の人。


知るとはなんだ…。
確かに、会って話して…感じてだろうが。
まだ触れる事もしてはいけないのかと思ったら、何気なくしていた事も、してはいけないのではないかと…エスコートする手も駄目かと思い始めてしまった。…慌てたように手を離してしまった。
勿論、愛しくて手に触れる事、衝動から肩を抱き寄せる事も駄目だという事になってしまう。
前は俺が俺の気持ちでしていた事ではあったのだけど。
したいと思った時に出来なくてもどかしくて、その都度ぎくしゃくするというか、…そう思っているのは俺だけかも知れないけど。
そうしない事が逆に自然ではないようにも思えるのだが。
…どうしたらいいんだ。
やっぱり俺は、俺らしくするしかない。話したりするだけだと言われても、…無理だ。 抱きしめたい時は抱きしめたいんだ。
何を今更…中学生みたいな事が出来るか…。



「こんばんは」

「いらっしゃい」

「…もう、どうしたらいいんだか解らない…」

「あ、ごめん。母親から連絡があった。謝っておいて欲しいって」

「え?」

「この間、海に行ったんだろ?それでうちの母親に会って、言いたい放題言われたんだろ?」

「言いたい放題とか…そんな事はありません。助言…して貰いました」

「詳しい事は知らないけど、昔の自分を見ているようだったからって言ってたよ」

…馨さんが私みたい?

「何かさ…もどかしくなって、つい、きつく言っちゃったって、言ってた。大丈夫だったか?」

「そうですか…あ、大丈夫です本当に」

「……俺はね、父親、知らないんだ」

「え?」

「聞きたい?」

「興味本位ではないですけど、…陽佑さんが話したいなら聞きます」

「じゃあ、止めた」

…。

「はい」
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