恋の人、愛の人。
「おはようございます」

「おはよう」

いつものように通路で挨拶をした。

「あの…」

「ん?」

「後で…、直ぐ部長室に行きます」

「ん、解った」



コンコンコン。

「はい」

まだ名乗ってもいない。中からドアが開けられると同時に手を繋ぎ引き込まれた。

「梨薫…はぁ」

有無を言わさず強く抱きしめられた。直ぐに離され、顔を両手で包まれた。

「どうして来てくれたんだ…ん」

あ。もう唇が合わされていた。

「…ん。部長?!…ちょっと、…はぁ、待ってください…」

「…あ、…ぁ、…嫌だったか?しては駄目だったか…すまない」

やはり焦っては駄目か…。

「違うんです。というか、ちょっと待ってください。…ふぅ。…知るという事、理屈ばかり言っていては駄目だって。私にはさりげなく色んな事、直接だったり間接的にだったり…アドバイスをくれる人が居て…。そう思ったら…こういう事も…気にしてはいけないって。衝動は大事だって思ったんです」

「ん?衝動?…梨薫。…それは、…そういう事でいいのか」

「はい。部長…私、好きになっているのかも知れないです。だから、おつき合い、お願いします」

「梨薫…。あ…ぁ…梨薫…」

抱きしめられた。…部長?

「嘘じゃないよな?本当だよな?…これは夢じゃないよな?…」

「ごめんなさい」

「は?何だ?嘘なのか?…どういう事だ」

離された。

「違います。ごめんなさい、少し落ち着いてください。好きだと言われていたのに待たせてしまった事を謝ったんです」

「待ってくれ…。本当にいいのか?本当に定まっているのか?俺でいいのか?」

「はい。こんな時間のない時に言ったりしてごめんなさい。でも、夜まで待ちたくなかったしメールも電話でも嫌だったんです。思い立ったら顔を見て言いたかったんです。…朝まで待つのももどかしかったくらいなんです」

「では、本当に迷う事なく、もう俺でいいんだな?そう思っていいんだな?」

「はい」

「あぁ…梨薫」

また抱きしめられた。

「…帰ろう」

「え?」

「ここでは駄目だ」

「え?…駄目って、何が…」

「帰ろう。…俺の部屋に行こう、梨薫…」

えっ?!…ん゙。
頭を押さえられて激しく唇が合わせられた。

「ん…も゙う待てない。ここ最近はこうして抱きしめる事も、腰に手を回す事も、手を握る事も、とにかく何一つ出来ない…いや、しない毎日だった。嫌われてもいいから思い切って抱いてしまおうかとも思っていた。…もう、我慢の限界なんだ。……10年待ったんだ…梨薫…」
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