恋の人、愛の人。
少し眠っては目が覚めを繰り返し…。
眠れそうもなかった。
予定よりも早いけど帰る事にした。
服を来て、ベッドを整えた。
バスタオルは持って帰る事にした。
バッグに入れてあるエコバッグを広げ、くるくる丸めてタオルを押し込んだ。飲みかけの水も入れた。
こんなものかな。
忘れ物は無い。
部屋を出て、裏口から外に出て鍵をかけた。
言われた通りポストに鍵を入れた。隠れるようにと手前になるように努力して落とした。
お世話になりました、そう呟いてバーをあとにした。
夜の間に小雨でも降ったのか、アスファルトが濡れていた。
もわっとするような湿気が、ここら界隈の何とも言えない独特な明け方の匂いを包んでいた。
マンションが見えた。
ここから見る分には人は居ないようだ。…まあ、居たとしてもずっと立ち続けているはずはないんだけどね。
緊張はありつつ、エレベーターを降りた。
まさかとは思った。
黒埼君が居た。ドアの前に座っていた。
靴音をなるべくさせないように近づいた。
「…黒埼君」
肩に触れた。
「…ん、……ん、梨薫さん…あぁ、梨薫さん…はぁぁ、おかえりなさい、心配しましたよ」
んーと腕を引き上げるように伸ばして首を回した。
「…何を言ってるの。ねえ、何してるの?何故、帰らなかったの…もう朝よ?」
ぼそぼそと小声で話す。
「…やっぱり」
「え」
「俺が居る事、知って戻らなかったんですね」
あっ。…。しまった。
「それは…。私が自分の部屋に帰ろうと帰るまいと関係ないでしょ?」