恋の人、愛の人。
「…時間差でなら、何とか大丈夫です。…何もかも初めてだから最初から一緒は恥ずかしいから無理です」

「では、先に入るか?…梨薫が入ってOKになったら呼んでくれ」

「…はい」


はぁぁ、一人になってドキドキが止まらない。…部長の思いに応えたら、きっと直ぐこうなってしまう気がしていた。でもそれは部長の部屋でだと思っていた。自分の部屋に帰ってから、部長が迎えに来てくれるまで、落ち着く時間を作れると思っていたのに…。

「梨薫?…大丈夫か?」

「あ、はい。ごめんなさい、もう少し待って…ください」

背中に手を回した…あ、れ?ファスナーの上、ホックが上手く外れない…。…どうしよう。こんな長く待たせて…何か変に思われないかな。
バスルームから出た。

「部長…」

「あ、梨薫。どうした…ん?」

「…あの…えっとですね…困った事に」

「ん?………ぁ…入れなくなったのか。…そうなのか」

…え。

「大丈夫なのか?その…、用意はあるのか?具合はどうだ、大丈夫なのか?」

?…。

「俺の事なら気にするな。残念だけど仕方ないよな。そうだな…では、食事しようか。食欲はどうだ?軽い物でも頼むか…。フルーツとかもどうだ?」

…あ!……違う。それとは違う。

「違います。アレではなくて…背中の」

「ん?」

もじもじしていたから誤解させてしまった。くるっと回って髪を除けて上の方に手を置いた。

「このホックが上手く外せなくて…だから手間取って、脱ぐ事が出来なくて…すみません」

…。

「あぁ、はぁ…そうか…何だか…とんだ早とちりをしてしまったか。…俺こそすまない。どれ…俺が外そう」

「すみません…お願いします」

部長の手が触れた。ドキドキする胸で両手を握って待っていた。動かす指先が時々肌に触れた。僅かだけど息がかかる…。

「梨薫…」

「はい。すみません、外れました?」

「もう…このまま抱きたい…」

あ。一気に鼓動が高鳴り始めた。体が熱くなってきた。
ホックを外し、ファスナーが下がる音がする。半分程下げられて止まった。後ろから抱きしめられ、髪を除けた首に唇が触れ、肩に触れたと思ったら抱き上げられた。
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