恋の人、愛の人。


「…風呂、先に入ろうか。大丈夫だ。俺が運ぶから」

…まだ、…ご飯が…まだですから。力無い裸のまま運ばれた。バス周辺は薔薇の香りに包まれていた。抱えられたままゆっくりとバスタブに浸かった。薔薇の香りがこんなに濃いなんて…今まで知らなかった…。

「はぁ…嘘みたいな時間です。今朝からあっという間に、部長と…こんな事になってるなんて」

部長の身体に腕を回しくっついた。

「…それは俺のせいだな。待ちに待った、長年の念願が叶ったから。しばらくは止められないぞ?」

「なるべく…お手柔らかにお願いします。…私、暫く…」

あ、…。口を塞がれた。

「…解ってる」

「…はい」

稜と別れてからは誰ともしていない。誰も好きになってないのだから当たり前だ。

「梨薫…稜は優しかったか…」

「…優しかったです凄く。だから私は何もかも甘えてました…甘えさせてくれました」

「そうか、…何もかもか。愚問だったな、やはり稜の話していたことは本当だったということだ」

頭を抱えるようにして抱きしめられた。ドクドク力強い心音が響いてきた。…生きてる。この人は生きている。この音が…生きている証…。稜…、私…。

「…甘えてくれ。梨薫が甘えたい子だという事は知っている。何でも許すと言ったらつまらなくなるだろうから、言わないけどな?」

「部長…」

「そろそろその部長というのも、名前に変えてくれたら嬉しいな」

「貴仁さんですか?」

「そうだな。さんは要らないと言ったが」

「…中々、呼び捨てには出来な、…ぁ」

「…これだったら…どうだ…」

え、あ、…いきなり弄られ始めた。…あ。

「…駄目です…はぁ、…のぼせちゃう…」

「名前呼んだら止める…っていうのは…どうだ?」

…ん、…んあ。…そんな…。

「俺は別に…このまま続けるから構わないけど?」

「…そん、な…部、長」

「続けて欲しくて、まだ…部長なのか?…」

「…あ、…貴、仁」

あ…ぁ。言ったのに…結局、止めてくれなくてぐったりしてしまった。

「よく出来ました」

抱き上げられてザバッと出た。

「ご飯食べて、休もう」

「…はい。あの…部長」

「ん?」

「今度、観て頂きたいモノがあるんです。私の部屋に来て貰えますか?私、引っ越そうと思っているので、引っ越す前に」

「ん、解った。また部長になってるぞ」

「あ、はい…」

落ちないように腕を回した。

「…あと」

「ん?」

「黒埼君とは…沢山キスをしました…私…」

「はあぁ……小悪魔だな…今、言うか?…ん?」

「あ、部長…ぁ…ん…」

何でも言ってしまう唇は深く塞がれ、それ以上の報告を遮られてしまった。
< 234 / 237 >

この作品をシェア

pagetop