恋の人、愛の人。
・エピローグ
「はぁぁぁ…陽佑さ〜ん」
「おぅ、いらっしゃい。なんだかやけに艶かしい声だな」
「…違いますよ~。反対です、反対。…はぁぁ」
「どうした若者。来る度しょげてるな」
「見事にさらわれました…」
「そうか」
「え?それで解るんですか?」
「鳶に油揚をさらわれたんだろ?」
「はぁ…まさに鳶に油揚です…」
「はぁ、大事なモノをいきなり奪われる事だろ、何してたんだ、警戒が無さ過ぎだ」
「そうなんです、何とでも言ってください、梨薫さん…油揚なんです…」
「おい、大丈夫か?さらわれたって言っても相手は正々堂々となんだろ?」
「…梨薫さんが帰りかけていたフロアに部長が現れて、帰ろうって言って梨薫さんと、梨薫さんの手を握って帰ったんです。…わざわざ会社でですよ?あれは、誰にも有無を言わせない…公然のつき合いの為です。梨薫さんと居なくなった後、残ってた人間で、部長って妻帯者じゃなかったか、あ、じゃあ、堂々と不倫宣言かとか言い始めて。俺、梨薫さんがそんな目で見られるのは嫌だったから、言うつもりもなかったのに、部長はとうに離婚してるって、言い切りました。関係ない黒埼が言うんだから、本当だろってみんな落ち着いて…」
「へぇ、偉かったな。好きな人を守ってるじゃないか」
「あ。…そうですよね。俺、梨薫さんを少しは守れましたよね」
「少しどころか、誤解が解けないまま週を持ち越して見ろ。月曜からどんな目で見られるやら。本人が違うという場はないに等しいからな。まあ、そうなったところで部長の鶴の一声で収拾はつくだろうけど」
「お…だったらあまり意味はなかったのか…」
「いや、皆が誤解しそうになった時、黒埼君の言葉で収まりましたって誰かが言ってくれるよ、多分。…お手柄だよ」
「そうかな。…はぁ、いざとなったら妨害も…大人気なくて出来ないし」
「妨害?」
「はい。梨薫さんの携帯を鳴らし続ける事です。少しでも…白けるかなと思って。だって、きっと二人は…」
「そうだな。それはまず無駄な事だな。多分用意周到に部長さんに切られてるよ。…邪魔はされたくないだろうからな。どうする?盛り上がってるぞ〜?」
「…はぁ、そうでしょうね。俺だって…そういう立場なら、…朝までコースですよ」
「若っ!」
「あ゙ーもう、…無い事です。…もう無い事なんですから。止めてください益々虚しくなるから…」
「そうか?俺は諦めてないけどな〜」
「え?陽佑さんこそ、もう、見守るような大人対応してるじゃないですか」
「俺は梨薫ちゃんにドキドキされてない」
「え?」