恋の人、愛の人。
「黒埼君は可愛いと言われていても、ちゃんとドキドキされてただろ?梨薫ちゃんに」
「あ、はい、まあ、それは一応、ドキドキするって言われました」
「どや顔でニヤけるなよ…。部長に対しては、今はまあ、ドキドキしまくっているだろうな。噂によると紳士らしいし、色々心得ているだろうしね。君も部長も…どちらも、恋しい愛しいドキドキを持たれているんだよ。俺は、ドキドキされて無い。つまり、今はただの利用されてるおっちゃんなんだ」
「陽佑さん…何だか自虐的過ぎて…、聞いてると俺が切なくなりますよ」
「まあまあ。それで、そんな俺は、これからに期待が持てるって訳だ。…梨薫ちゃんは、何かあると必ずここに来るんだ。そして俺に何でも打ち明ける。そんな、何でも受け入れている男、いいと思わないか?なんでこんな頼れるいい男に惹かれてるって…気がついてないんだろうな…」
「…甘いっす。梨薫さんに好きな人が居ない時に限り、隙が出来るって事です。悩みが無いなら来ないって事です。…ん?じゃあ、どうなんだ?
そうか、部長の事で悩んだら来るって事だ」
「それは多分無いんだよなぁ」
「え?」
「俺だって、思いが通じるかもって事は不毛な考えだって思ってるさ。部長と同じように長く思っていた君を前にして言うのもなんだけど。長年思い続けた気持ちはちょっとやそっとでは揺るがないもんだろ?自分のモノになったら部長が離さないだろ、まして若い訳でもない。…強い思い……ころころ気持ちは変わらない」
…。
「君は考え方を変えたら次にいけるはずだ。一生、梨薫ちゃんだけと思うにはまだ若過ぎるよ。梨薫ちゃんの事は別枠で特別に大事な人だと思うようにした方がいい。彼女が出来てもそれは言っては駄目だ。ずっと収めておいた方がいい事だ」
…。
「直ぐにはそんな気持ちになる事が無理だって解ってるよ。でもまだ27だろ?運命だとか、決まった出会いしかないとしても、それが梨薫ちゃんだけでは無いはずだ」
「そんな事言って…、上手く邪魔者を一人減らそうと思ってるんでしょ…」
「…バレたか」
「ハハハ。当たった」
「恋愛は、いい人になってしまったら終わりだ、…ドキドキしなくなる。
…はい、これは奢りだ。…アキダクト。『時の流れに身をまかせ』、だ」