恋の人、愛の人。
「居るかも知れないと思いながら帰って来たんですよね。それで俺が居たのが解ったから…今までどこかに行っていた。…梨薫さんには関係ないでしょうが、帰らなかったら、俺は心配します。まあ、それは俺のせいですが」
…。
「何故?どうして居たの?貴方なら行くあてがないことも無いでしょ?」
…。
「あのコールしようとした電話の人のところ、一緒に居たんですか?…今まで」
「え?」
何だか、ドキンと胸が鳴った。…苦しい?
「今までの間…昨夜の外泊先の事です」
「関係ないでしょ…」
ギュッと掴まれたみたいに何だか胸が苦しい。
「そうなんだ…、今の言い方…、そうって事ですよね?」
「だから、関係ないって言ってるでしょ?
もういいでしょ?どいて欲しいの、まだ早いから少し眠りたいのよ」
「…眠れなかったんだ」
「そうよ」
…。
「…どうぞ。お邪魔しました」
ドアの前から退くと身体はエレベーターのある方に向かいかけていた。
「あ、ちょっと」
「何ですか…」
素直に帰ってるんだからいいじゃないか、そんな俺にまだ用があるのかって顔だ。
「帰るの?」
「はい、帰りますよ?」
当たり前の事、聞く意味はあるのかって顔だ。
「…そう」
「おやすみなさい。お邪魔しました。ゆ〜っくり、身体、休めてください。じゃあ」
「ちょっと、今の。変な勘繰りはしないでよね…」
「何ですか、変な勘繰りって」
ちょっと喧嘩口調だ。…素直に帰っているのに。引き止める事もないのに。
でも誤解されるのは嫌だった。
「変な勘繰りは変な勘繰りよ。別に…眠れなかったとかは、…そんな事じゃないから…」
「はぁ…そんな事って、どんな事?じゃなかったら何?」
「不思議な夢を見たから、眠れなかっただけよ。居る場所を借りただけで、私一人だったのよ。
だから、変な事、想像しないで。…夢のせいなんだから」
「…へぇ」
信じてない。上手く誤魔化そうとしようとしてるって、思ってる返事だ…。
「別に信じて欲しいとか思ってないけど、それが真実だから。何かあったとか…勝手に思われたくないの…」