恋の人、愛の人。
「関係ない、って言いました、どうでもいいって思ってるんでしょ?そんな俺に言い訳しないでくださいよ。必要ないでしょ」
「変な誤解はされたくないからよ。それだけよ」
「別に、大人なんだから、何があったって…なんでもありでしょ」
…なんでもありって、何よ…。腹立つ言い方ね。
「そうね。じゃあ、おやすみなさい」
カチャカチャと鍵を開け中に入った。
閉まりかけていたドアが大きく開けられた。人が入って来て閉まると鍵がかけられる音がした。
ごとごとと靴を脱ぐ音が後ろでした。
…えっ?振り向くも何も、当然、居たのは黒埼君だった。
「ちょっと…帰るって」
「帰るところもきっちり確認せず、入って鍵も直ぐかけないから、こんな事になるんですよ。本当…学習能力が無いなぁ。
入った俺が言うのも変ですが、これだから、色々心配して当然でしょ?」
私を追い越し先に上がると、廊下を進みながら上着を脱いでいた。靴下まで脱いでいる。
…あ、呆気に取られている場合じゃない。
慌てて後を追い掛けた。…また?…このパターン?
「ちょっと。私、今、一時間でも眠りたいの、もう、帰ってくれる?」
「解ってます」
手を引かれた。
「ちょっと?何するの…」
「何って…何も。眠りたいのでしょ?寝ればいいじゃないですか。
格好よく抱き上げて運びたいところですが、流石に今そんな事をしたら共倒れになりそうなんで、それは、次回のお楽しみという事で。
俺もまともに寝てないんですよ。俺も寝ます」
「ちょっと…黒埼君、待って…ちょっと」
ベッドに行き、倒されるように一緒に横になると、がっちりと拘束された。
「寝ましょう…」
「は!?もう、ちょっと、何してるの、何言ってるの。
帰れって言ってるでしょ?…放しなさい。もう、離れて、放して!」
「もう…ワーワーうるさいですよ。寝るんでしょ?時間が無くなります。
騒ぐと眠気も覚めちゃいます。
目覚まし、セットします」
携帯を出し、置いた。
きっと既に帰る予定時刻にアラームは合わせていたのだろう。今、何もしている様子は無い。
「時間が勿体ない。俺は直ぐにでも、もう寝られるんで…」
力強く抱きしめていた腕は、だらりと強さを失った。
…嘘、寝たの?この寝付き…相当眠かったに違いない。
…はぁぁ。…もう、…何なのよ…。このお騒がせ男…。
ぺちっとおでこを叩いた。…起きもしない。
「はぁ…もう…このまま寝られる訳ないじゃないの…」