恋の人、愛の人。


「…おはよう、桃子(とうこ)ちゃん」

「おはようございます」

…怠くてたまらない。今日は金曜だから、取り敢えずやり切るしかないか。…はぁ。

「来て早々なんだけど、ごめんね、ちょっと珈琲飲んでくるね」

フロアに入り、先ず桃子ちゃんのデスクまで行った。

「はい。あの、今朝、珍しく遅めですね」

気を遣った聞き方をしてくれているのだろう。

「…うん。眠れなかったの。それでだらだら寝てたら気がついたら時間が無くなってて。今朝はね空腹のまま来ちゃったのよね」

「あー、理由は色々だけど、眠れない時、ありますよね」

「桃子ちゃんみたいに、好きな人を思ってじゃないわよ?」

「え!?えっ?」

フフ、可愛い…解りやすいわね、頬に両手を当てている。片思いでもしてるのかな。するわよね、若くて可愛いんだから。あ、…可愛くなくたって…若くなくても、するのは自由だ。

「当たっちゃった?フフ。じゃあ、ちょっと自販機へ行って来るね」

「あ、は、はい。…あ、梨薫さ〜ん。デスクに封筒が置いてありましたよ?」

「え?」

封筒?フロアから出かかっていたがまた戻った。


本当だ。

「私が来た時はもうありましたよ」

「んー、なんだろう?…何も書いてないけど、これ、私にで間違いないのかな」

「梨薫さんのデスクだし、ウエイトも乗せてあったし、そうだと思いますよ?」

社の物ではない。封筒を手にした。裏に返して見た。何も書かれてない。何だか硬い…厚みのある紙が入っているようにも思える手触りだった。…誰だろう。

「有り難う。取り敢えず、これも、ちょっとあっちで見てみるね」

「はい。いってらっしゃいませ」

「うん」


封筒を手に自販機のある休憩室に行った。

先に珈琲を買った。注ぎ込まれるのを待ちながら、首を倒したり回したりした。

椅子に腰掛け、きちんと閉じられている封を開けて見た。何、何…。
珈琲を口にする。
指を入れ引き出した。
これは…多分ギフトカードだと思う。きちんと包装されていた。…ギフトカード。心当たりが無い。

何やら二つ折の紙も入っていた。これ、見たら解るって事かな。
怖いもの見たさ…そんな変なドキドキに近い思いで開いて見た。

綺麗な文字が並んでいた。

『先日は申し訳なかった。食事にでも誘えるといいのだが。これではお詫びにもならないが、せめて買い物の足しにでも使って欲しい。晴海』

…晴海って…部長?!
思わず立ち上がった。…テーブルで脛をしこたま打った。
私の知る限り、こんな言葉遣いの女子社員に晴海ちゃんは居なかったと思う。

部長…。真面目な話、文面からして部長に間違いないだろう。
でも、こんなに…。とても高額…。それ程ギフトカードは沢山入っていた。

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