恋の人、愛の人。

「昨夜は有り難うございました」

陽佑さんのお店に来ていた。

「いや。貸しただけの事だ。問題なかったか?」

「はい。あ、入れておいた鍵はありましたか?」

「ああ、大丈夫だ、ちゃんとあった」

「良かった。…はぁ、…」

「…どうしたんだ、また何かあったのか…」

「あったも何も…毎日毎日…なんなんでしょうか。…あ゙ーも゙う」

「今日はどうするんだ?週末だし、また居て、巧みに部屋に潜り込まれたらずっと居続けるかも知れないぞ…」

はぁ、そうだった。その事もあったんだ…でも。

「それは何とか出来そうな気がします」

年下だからって嘗めてかかってると危ないと、言われるのは間違いない。

「そうか。ま、知らない人間じゃないからって事もあるか」

え…意外だった。こんな言葉が返ってくるとは思わなかった。

「お借りしたバスタオルは持って帰ってるんです。洗濯してから持って来ます」

「ああ、いつでも構わないから」

「…うん。あ、お水、一本頂きました」

「あぁ、いいいい。
帰った時は居なかったのか?」

「…朝?」

「そうだ」

「…居ましたよ。ドアの前に座ってました」

「はぁ、凄い情熱…ていうか、梨薫ちゃんが帰って来ない方の心配が強かったのかもな」

「あー、心配はしてくれていたのかも知れない。何だかちょっと不思議な子です…」

あの子が来るようになって、何だか掻き乱されて…稜の夢だってまた見てしまっているのかも知れない。
それは関係無いか、よく解らずに見てる夢の理由が欲しいだけ…都合のいいこじつけに過ぎないわね。

生身の人間のキス…か。思い出してしまった。唇に指が自然と触れていた。
だけど夢の中の稜とのキスは生々しかった…。唇が覚えている。温度も感じた。生身と変わらない熱のあるキス…。自然と稜を思い出して身体が疼いた…。

「…はぁぁ」

手で顔を覆った。カウンターに伏せ込んだ。

「おい…、酔った訳じゃないよな」

「…違いま~す。…ふぅ」

もう…、釈然としない事ばっかり…。混乱する。

「もう……どこか行きたいかも…」

はぁ…。完全な現実逃避、希望だ。
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