恋の人、愛の人。
朝、目が早く覚めてしまった。
…はぁ、休みなんだから、もっと寝ていようか。多分、怠くなるだけで眠れはしないだろう。
起きて何となくだ、玄関に行った。
ドアを開けてみた。…少しだけ、細い隙間ほど開いてから開かなくなった。重いというか、何かに当たっていた。それでも押した。重くなった。嫌な予感がした。顔が出せるくらい隙間がやっと出来た。
恐る恐る覗いて見た。
やっぱり…。居たよ。…いつ来たんだか。…はぁ。座り込んで寝ているようだった。
「黒埼君、黒埼君……黒埼君。ねえ、ちょっと、黒埼君」
手を伸ばし、肩を揺すった。
「…んん、…わっ、あ…あ、梨薫さん…え?中?居たんですか?」
「こんなとこに居ないで…入って。…早く」
「え、いいんですか?」
「取り敢えず…早くして…早く」
「あ、はい」
立ち上がって腰をパンパンと掃う。
ドアを開けた。
「上がって?」
「いいんですか?本当に」
「…上がって…早く」
「はい」
朝だとこんなに簡単にというか、入れてしまう。だって部屋の前にずっと居られたら、本当に…周りの目だってあるんだからね。
「座ってて」
「あ、はい」
珈琲を入れにキッチンに行った。
何だかよく解らないって顔で黒崎君は取り敢えず腰を下ろした。
ソファーに座り、ふーっと長く息を吐き、顔を撫でている黒埼君にカップを渡した。
有り難うございますと受け取った。
「怒ってます?よね?」
「……ふぅ。…呆れてる。眠いでしょ?…はぁ、どうしたの…。いつからか知らないけど、どうしてずっと居たの?ずっとよね?」
「はい。帰ってないのかと思ったから」
「だとしたら、ずっと居ないで、帰れるところに帰ればいいでしょ?こんな事、続けられたら、解るでしょ?困るって」
「また、電話の人のところ…。一緒かと思って…」
「はぁ…、またって事はない。居ても一緒って事でもない。…そんな関係じゃないから。
泊まってもないでしょ?こうしてここに居るんだから。
私は黒埼君が来るより前に帰ってたって事よ。それから、電話の男性は何も関係ない人だから。
私がよく行ってるバーの人だから」
あ、もう…こんな事まで話す必要はないのに…。