恋の人、愛の人。
「寝てないんでしょ?まともになんか寝られないわよね」
いつ帰ってくるんだろうか、とか、考えながらですもんね。…はぁ、本当にもう…。
「え?はい、まあ、ほぼ、はい」
「はぁ…そんな状態で、こんな時間から話す事でもないけど。
どうして、うちに来るの?その…、何て言うか、こんな風にしなくていい事でしょ?」
「…会社は職場です」
…。つまり惚れた腫れたの話は出来ないからって事だ。
「そうね」
だけど。帰りがけに声をかけるとか、やりようはあるでしょうに。でも、なんで?って言ったら結局いつかはこうなるのか…。
「少し話し掛ける事は出来ても、それは仕事の話です。加えて話せたとしても、笑わせる事くらいしか言えません」
「…そうね」
だって、ただの先輩後輩だからね?
「…フ。いつも笑ってくれる。梨薫さんは流したりせず、笑ってくれてる」
うちに来るようになってから、私の事を梨薫さんと呼ぶようになっている。
「居たら面白い子、それだけになりたくなかったんです。多分…俺の事はそんな風に見ているだけだ。違いますか?」
…。はぁ、直ぐ返事をしないから、そう思っていると思っただろう。
珈琲を口にしている。
「こんな事も、子供っぽい事をしてると思ってる?俺は自分で思ってます。…じゃれても何でもいい。このままじゃ駄目だ、何も変わらない。梨薫さんと居る時間を作りたかった。強引な考え方ですが…。泊めて欲しいと言ったら、そんなに強く拒絶されないだろうって、そんな身勝手な自信はありました」
「はぁ…あのね…」
私をどう見てるの?…緩いとでも?
「解ってます、呆れてるって、馬鹿にしてるって、怒らないでください。それこそ、子供っぽい考えよって、思ってる」
「うん…そうよ?…嘘よね?追い出されたって話も」
「それは本当です」
「嘘よ…あのね、可笑しくない?だったら、こんな事をする直前まで、一緒に暮らす程の人が居たって事でしょ?それなのに、私がどうとか、それって可笑しくない?そんなに気持ちってころっと変えられるモノなの?」
「何がですか?」
「何がって…駄目になって直ぐ私のところに来たっていう、その、心境って可笑しくないかって聞いてるの。あっちが駄目になったから、こっちみたいな。そんな簡単なモノ?誰でもいいの?黒埼君がしてる事はそういう事でしょ?」
「それは違います」
はあ?