恋の人、愛の人。
気にはなりつつも、お風呂に入りそろそろ寝ようかと思っていた。

…。居ないわよね。あれからずっとうろうろ居たら、きっと誰かに通報されてるだろうし。
こんな時間だから、誰も通路をうろうろしないかもか…。


…そっとドアに近づき、スコープを覗いた。
当たり前だけど、ずっとドアの前に立ってるはずもないだろうから、見たって居るはずもない。それらしき影も見えない。

…。

カチャ…。ドアを少し開けて見た。

開けた方には居なかった。
まあ、こういうものよね…。帰ってくれたんだ。

「武下さん」

ドアに手が掛かった。へ?

「な゙っ、キャ…」

「うわ、悲鳴は…」

足でドアを止められた。必死でドアを閉めようとして、玄関に侵入仕掛けている黒埼君の半身を挟んだ。黒埼君の伸ばした腕は掌で私の口を塞いでいた。

「痛っ、痛いですよ、武下さん。俺、俺です」

「ん゙が、そ…そんなの、見たら解る。何で、居るの、よぉ!」

首を振って塞がれていた手から逃れた。更に力を入れてドアを引いた。

「あ゛っ、痛、痛、痛い、痛いですって。とにかく、これ以上挟まないでください。本当に痛いんですから、本当です」

私の口から手を離したから両手が使えるようになってしまった。

「そっち、が、出なさいよ、ね゙」

んー゛。更にドアを引く手に力を入れた。

「痛っ。無理ですって。二進も三進も…出られないですよ、がっつり挟まれてるんですから。これ以上力任せに挟まれたら痣になりますって」

「ん゛ー…駄目よ。そんな事言って。緩めたら、その隙に入るつもりなんでしょ?」

「いいから早く緩めてください。痛いですって。…あっ!やば、…人が来る」

「え?……あ゙」

「はい。入っちゃいました~」

…ほらね、はぁ、まんまとしてやられたじゃない…。

「お邪魔しま~す。もう疲れちゃいましたよ、俺」

痛いなもうと言いながら肩を回し腕を上げた。ゴトゴトと靴を脱いだ。

「あ、こら、待ちなさい!」

誰も許可なんかしてないのに、勝手に上がり込んでスタスタと部屋に入って行った。慌てて追い掛けた。

「ちょっと!黒埼君…駄目よ…」


立ち止まってぐるっと部屋を見回していた。

「へえ~。何だか…、へえ~。女性の一人暮らしってこんな感じなんですね…」

…。もう鞄を下ろしてソファーに腰を降ろしていた。…はぁ、どうしてくれようか、このずる賢い男。
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