恋の人、愛の人。


「別に滅多にある事でもないし、梨薫ちゃんのご飯代が貰えなくて店が潰れる事は無いから」

「そうは言ってもですね…」

甘え過ぎだから…。

「ごちゃごちゃ言うと、部屋貸さないぞ?」

…。あ、そうだ、部屋だって、ただって訳には。

「嘘だよ。気を遣うなって言ってるんだよ。
俺だって、何気に朝一人で食べるより嬉しいんだから。だから、いいんだよ」

「…すみません、有り難うございます。その内、少しでも多く通って、お酒注文して返しますね」

「フ…。あぁ、好きにしろ。じゃあ戻るわ」

「はい、有り難うございます。おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ。…そうか、ここに居るから、気をつけて帰れって、心配しなくていいな」

「フフ、そうですね。
陽佑さんに気をつけま〜す」

「馬鹿…。じゃあな」

「フフ、はい。おやすみなさい」

…馬鹿やろう。上手い事言ったつもりだろうが、そんな軽口…。



横になって瞼を閉じ、稜を思った。

上手く想像の映像が作れない。
夢を見る事も出来ず、何度も目が覚めた。

あんなに願ったのに、稜は一向に夢には現れてくれなかった。
さりげなくじゃないと駄目なのかな。
いざとなると難しいモノなんだな。

時間帯にして真夜中を過ぎた頃だっただろうか。

稜が現れた。

ベッドに腰掛けている。
真っ直ぐこっちを見てる。

「梨薫。俺は梨薫を忘れない。ずっと思ってる。…梨薫に…俺の……残したかったんだ」

稜…、え、どういう事?
途切れているの?それともそのままの言葉なの?

「梨薫…もっともっと、早くから一緒に暮らしていたら良かったよ。俺は梨薫ともっと居たかった。梨薫をもっと…」

…え?何…。

「もっと、抱きしめたかった…」

スーッと一気に暗くなった。

…はぁ、稜。はぁ……これは夢よね?…。夢でも何でも、…稜が何か言いたがっている。別れには何か理由があった気がして来た。そう感じた。
これは都合のいい解釈?…。そう思いたいだけ?
…稜。また会える?また、話しに来てくれる?
言いたい事があるのなら、言ってほしいの。だって私は聞いてない。終わりになった理由だってちゃんと知りたかったの。

ねえ、稜…、元気にしているの?
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