恋の人、愛の人。
もう一つしてみようと思ったのは、稜が借りていたマンションを訪ねてみる事だ。一緒には暮らしていたけど稜は自分の部屋も借りたままにしていた。

これは多分無理に近い。
前から名前を表示させていた訳でもないし、ポストも部屋番号だけだったから。

インターホンを押して、居たとして、出てくれるのか。居留守を使われてしまうのか。もう引っ越しているかも知れない。

駐車枠に車があったとしても、乗り換えているかも知れない。置き場所だって変えてるかも知れない。
車のナンバーから所有者は調べられるモノだろうか。
今更…微妙に過ぎた歳月は、やはり何かを知ろうとしたら難しいのかな。


会社の帰り、マンションに寄った。
どう考えてもこの時間にはまだ帰っていないだろう。仕事に変わりがなければだ。
それでもインターホンを鳴らしてみる事にした。

…。押した。

ピンポ〜ン。

「はい…どちら様でしょうか…」

出たけど…女性だ。…あ。何か言わなきゃ。

「あの、そちらは蔵下さんのお宅でしょうか…」

「え?違いますけど…」

違った。…はぁ。怪訝な感じの声だ。あ。

「すみません、間違いまし…」

ガチャ。

あ…、訪問販売とか、思われたのかな…。凄い勢いで切られた。
違うのかな…迷惑だと思って、違うって言われたのかな。それとも、本当にここにはもう住んでいないのかな。
…確かなモノは何一つ得られなかったじゃない。
嫌な気分になっただけ。

奥様かも知れない。…なんて…そこは何となく考えないようにしよう。…貴方を訪ねて女性が来たのって、言われたら…。ちょっと揉めるかもしれないかな。悪いことしちゃったな。

職場に連絡してみるのは。……駄目よ。流石にしつこ過ぎる。別れて直ぐのことでもなく、今更…。凄いストーカーみたいじゃない。
代わりたくなくて断ったりしたら、周りの人に不審がられてしまうかも知れない。それに居ないって言ってくれって言われてるかも知れない。身内です、と嘘をつくのも気が引ける。…はぁ。
我が儘に自分勝手な行動をしてはいけない。色々する事は結果として稜に迷惑が掛かってしまう…。もう、止めよう。


稜のマンションからの帰り、うっかりして自分の部屋に帰って来ていた。

…。

ちょっと寄ってみようかな…。私の部屋だし。
別に遠慮はしなくていいはずだ。
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