恋の人、愛の人。
もしかしたら、稜のモノ、残している物の中に何か手がかりになる物があるかも知れない。

鍵を開け、誰も居ない暗い部屋に入った。

真っ直ぐ寝室に向かった。

確かこの引き出しの奧に…。
ツールボックスにしまった稜のモノ。
…あった。
開けるのはしまって以来…。

ベッドの奥側の前にぺたっと座り、取っ手の付いた蓋に手を掛けた。硬い。小刻みに引き上げた。ガコッ。開いた。金属製のボックスは暫く開けなかった事できつくなっていた。
蓋が開いた途端、中の物が飛び出し、落ちた。

…あぁ……写真…。一気に昔に引きもどされた。
真っ先に飛び込んで来たのは稜の顔だった。
色褪せる事のない…、稜の照れ笑いする顔がそこにあった。

…私ったら、本当に…何も捨てられなかったままだったんだ。…はぁ。
写真はわざわざこうしてその都度プリントしておいたんだった。
携帯に入れたままでは、何かあって取り出せなくなったら全部駄目になってしまうからだ。だからこうしてここにある。

あ…ネックレスだ。これは最初のプレゼントだった。…何も欲しがらない私に稜が決めて買ってくれた物…。
…あ、この指輪…これは…、最後のプレゼントになった物だ。暫くどっちも直ぐには外せなかった。
はぁぁ、一緒に行った映画のパンフレットまである…。懐かしい…。私は…何一つ…稜との物、捨てられなかった。

稜…何だか夢に見ちゃうから、無理に封印した思いが出て来ちゃったよ…どうしてくれるのよ…。
でも、…終わりと同時に稜はちゃんとしたんだね。携帯の番号を変え、多分…引っ越しもしたんだと思う。
私だけがやっぱり引きずっていたんだね。終わりにする理由は、言えないから、言ってくれなかったんだよね。きっとそう…。それで納得してくれってことだよね。
聞いていて、例えば私が嫌だと言ったとしても、稜の気持ちは変わらなかった…終わりは終わりなんだから、理由は何でも同じ結果だったんだよね…。そうだよね?


カチャカチャ。…あ、黒埼君…帰って来たんだ。

足音がする。

「…梨薫さん?………梨薫さん、居るんですか?」

明かりも点けずベッドの奥側にもたれて座り込んでいた。


「梨薫さ、ん?…居るんですよね?」

ドアは開けたままだった。

「…あー、…梨薫さん…びっくりしましたよ。こんなに暗くなってるのに。
明かり点けますよ?」

「駄目…点けないで…お願い、入らないで…一人にしておいて」

梨薫さん?…。
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