恋の人、愛の人。
「ごめんね、黒埼君…はぁ、稜がね、夢で何か言いたがってるみたいに思えて…夢なのにね。
このベッドに座って私を見て話すの。
そんな夢を見たら本当に言いたい事が何かあるんじゃないかって…。
私の独りよがりなの。…本当、夢なのにね、思い込んじゃって…はぁ。
…夢で会いたいと思ってしまったの。
そんな力も無いのに…稜をね、何度も思い描きながら寝たの…」
…梨薫さん。
「駄目ね…」
「え?」
「どんな別れになっても、やっぱり理由は言ってくれないと駄目だよ…。
稜にもし偶然でも会う事があったら、私言ってやるんだから。もし、嫌いになった理由が私を深く傷つける理由だったから言えなかったって言っても…、言われて、知って、別れた方が良かったって…」
…。
「…だって、お陰で…もう終わらせていたのに、年月が経ってからこんな風になっちゃってるんだよ?原因は夢だけど…酷いよね…」
持ち直して来たかな…。
「梨薫さん、ご飯は?」
「…え…まだよ?」
「じゃあ、何か作ってくださいよ」
「黒埼君もまだなの?食べずに帰って来たの?」
「そうなんですよね…。なんだか、梨薫さんが俺を呼んでる気がして。
飯食ってる場合じゃないぞー、早く帰れー、ってね?」
…。
「何だか調子いいこと言ってる…」
「本当ですって。虫の知らせってやつですよ。
タイミングも良かったでしょ?」
「それはきっとお腹の虫の方よ。グーッて鳴るやつの方」
「…酷いなぁ。まあ、それもありますけどね」
「何か材料はある?」
「んー、見てください梨薫さんが。俺は使ってないから」
「もう、…もしかして冷蔵庫も開けないレベル?
はいはい、解りました」
良かった。何とか元気になったな。
「いや、水は出し入れしてますよ?」
…。
「あっち、行こうか」
「はい」
身体を支えて立ち上がった。
あー、…離れてしまうな…。