恋の人、愛の人。


「別に…無理に引き止めようとするつもりはありません。
梨薫さん、俺、部屋に戻る事になったんです」

「…え、そうなの?」

「はい。何だかよく解らないんですけど、もういいらしいんです。急に向こうから言って来て」

「大丈夫なの?また都合で追い出されたりしないの?」

「それは念押ししてます。その…、また、とかは困るから。もう無いって事で決めましたから」

「そう。口約束だからって、また簡単に困らされなければいいけど。
とにかく、良かったじゃない。住み慣れたところの方がいいものね。
新しい部屋がまだ見つかって無くて良かったじゃない」

…。

「それで、週末に荷物とか運べたらと思っているので、早くて土曜までは居させてください」

「解った。…じゃあ金曜の夜は、ご飯にでも行く?この前、私が潰しちゃったから」

「だったら、ここで、梨薫さんの作ったご飯が食べたいです」

「え、いいの?それで。好きな物、食べに行った方がよくない?」

「店に誘う事は、これからだって出来ますが、ここでご飯は…今の状況じゃないと無理ですから。…ですよね?」

つまり、ここを出たら、何かしら良い方に進展が無い限り、来る事は無いって事だ。

「そうね」

…そんな事無い、いつでも来たらいい、とは言ってくれないか。…当たり前だよな。

「…梨薫さん、俺は、やんわり振られているんでしょうか」

…。

「すみません、…急にこんな聞き方をして…困りますよね。
そうだとしても言い辛いですよね」

「黒埼君…」

「何も、部屋に泊まらなくなる事が、終わりって事じゃないのに。
何だか、出て行くみたいで…。あ、実際、出て行くんですけどね。
その…、後半は一緒では無かったけど、梨薫さんと暮らしていた気分を味わっていたから。
こんな話は、最後の日にします。
今からしんみりしたら俺…」

「はぁ…何だか、…もう。
今夜はこっちに居るから」

「…え?本当ですか!」

「本当よ。…上手くいった?」

「え?違います、違いますよ?
普通に話しただけなんですから。“居てくれないと寂しい作戦”じゃないですからね」

「はぁ、解ってるわよ。正直だもんね。
それで?一緒に寝るの?
お風呂は?」

「………え゙ー!?風呂、一緒にいきなり入れるんですか?うわ…うわ」

「…違うわよ」

「あゔ。やっぱりそうですよね…嬉しくて心臓が止まるかと思った。お風呂とか言うから」

「あ、お風呂は、普通に考えて違うでしょ。お風呂入る?って意味で聞いたのよ?一緒じゃないわよ?」

…だよな。スパッと言うよな。

ん?じゃあ一緒には寝られるのか?
…これは触れないでおいておこうっと。
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