恋の人、愛の人。


「何が食べたい?金曜」

…。

「黒埼君?…想像してる?」

…。

「…え、あ、はい、はい。あー、そうですね。梨薫さんに任せます。
あー、想像なんてしてませんから」

「ご飯の想像の事よ?…フフフ」

…悪魔だ。

「じゃあ、おむすび?」

「嫌とは言いませんが。せめてちょっと何か足してください」

「いいの〜?それで?それにしちゃうぞ〜」

…。

「いいですよ。何も要らないって言ったら、梨薫さんをくれるんですか?」

…。

「それは無理ね」

「急にシビアになるんだから…。だったら、…もう、…何を話していたか、俺はもう話がよく解らなくなりました。
俺が好きな物が食べたいって言ったら、そうしてくれるんですか?」

「そうするわよ?…ただし、これはご飯の話だからね」

「きのこの炊き込みご飯、しょうが焼き、でお願いします」

「解った。他にも適当に作るね」

「有り難うございます」

…。

「寝ようか」

もう寝ちゃうんだ…。


パチ、パチッと明かりを消された。
別に、テレビの明かりがあるから移動は出来るけど。

布団に入った。後ろに気配がする。寝返りをした。

梨薫さんが側に来ていて布団の端を握っていた。

……え?

「もう少し、向こうに寄って?」

「えっ?…え゙っ!」

「一緒に寝るって言ったでしょ?」

…あ、う、…夢か?いや起きてるし。…現実だ。

「その変わり、寝るだけよ」

「あー、はい…どうぞ」

平静にだ…平静。
端に寄って場所を空けた。

掛け布団を捲り、横になった梨薫さんに布団を掛けた。

「狭いから…もう少しこっちに寄って…来て?」

…はーっ?!

「どんと構えてるんでしょ?動揺しないで…」

少し寄った。当然身体が触れた。
腕を回された。俺の胸に梨薫さんの頭が乗った。

はぁぁ…これって、何だ?…軽い悪戯か、俺はいたぶられてるのか?…はあ?…えー。

「ドキドキし過ぎだから。…私だってドキドキしてる。これは予定外だから」

「梨薫さん…」

「…ごめんね。誰かの温もりが欲しくなったの。これは黒埼君の気持ちを利用した酷い甘えなの。
しかも、何もするなって上での、残酷な…ごめんね、本当ごめん、こんな事して…」

…あぁ、解った。やっぱりベッドルームに居た時、また何か過ぎったんだな。多分そうだ。

「…大丈夫です。ちょっと動揺しましたが…、男に二言はありません。大丈夫、何もしませんから」

「…ごめんね。意地悪してごめんね…」

乗せた頭が少し動いて更に身を寄せられた。左手がキュッと俺のシャツを掴んだ。

梨薫さん…。
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