恋の人、愛の人。
『ハルちゃん』、一見ふざけているみたいだが、部長の登録名はそうする事にした。漢字を使うのも止めておいた。部長を連想してしまいそうだからだ。…考えすぎかな。
ハルちゃんなんて…本人に知られたら本当…まずいくらいの事かも。

部長…よく解らない…。そうじゃない。…解る。
今までは隠していた気持ち。それをはっきりと表に出したから。文字通り、たがが外れてしまったんだ。それがあの行為だ…。
だけど、朝、通路で会わなかったら部長室に行くっていうのも…。行けば僅かな時間といっても、今朝のような事になるのは解ってる。入ってしまえば部屋に二人なんだし。…。

通路で会って、きっちり、おはようございます、と挨拶ができれば行かなくて済む。毎朝、部長室を訪問するような事になっては…、その内、噂もたってしまうかも知れない。
はぁ…、もう少ししたら生活パターンも元通り、落ち着くはずだから。ここ数日という事か。言われたからといって……行かなくても問題無いと思う。むしろ行くって事は、…私の気持ちを表す事になるんだ…。


「…ん゙ー」

「どうした?」

「何でもないです」

何でも陽佑さんに話してしまうと、相談してるみたいになって、結果、迷惑を掛けてしまうパターンだ。

「そうか。ご飯は?食べたのか?」

あ、それは…今夜は部長から連絡がある事になっているから、どうなるか解らないから…。そういうことだと勝手に思ってる。

「食べてます」

と言っておこう。

「そうか。珍しいな。で?アルコールはいいのか?」

「はい、あ、今日は、ごめんなさい、売上にあまり協力しなくて」

今はノンアルコールの物を飲んでいた。

「そんな事は気にするな。あのな、梨薫ちゃん…」

ブー、ブー、…。

「あっ、ちょっとごめんなさい、電話みたい」

「あ、ああ…」

ゔ…来た“ハルちゃん”だ。急いで店の裏に行った。

「はい、武下です」

「あぁ、晴海だ。まだ外に出られるかな、時間は大丈夫かな?」

遅いはかなり遅い。…でも。

「…はい」

「では、この前の場所、表通りで待っている。来て貰っていいかな。車で待ってるから解ると思う」

「はい。なるべく早く行きます」

「いや、慌てなくていいから」

…、ふぅ。何だか…単純に大人な誘い方だなと思ってしまった。

店内に戻った。バッグを手にした。

「陽佑さん、ご馳走様でした」

…あ、電話の前、何か言いかけてたようだったけど…いいのかな。

「あぁ、うん」

私は、今から出掛けるとも言わない。

俺は、どこかに行くのか、帰って来るのか、とは聞かない。


「はぁ、お待たせしました、すみません。…はぁ」

「いや、待ってないよ。慌てなくていいと言ったのに」

ハザードが点滅している車の横に立っていた。近づくとドアを開けられた。…恐縮しながら腰を下ろし乗り込んだ。
これだけでも思う事はある。今日も部長は何も確認もなくここに現れていた。
乗り込んだ部長はシートベルトをした。車が進み始めた。
勿論な話だか、今まで仕事をしていたのよね。

「あの、お仕事、お疲れ様でした」

年上の人にお疲れ様でしたは、言葉遣いとしては正しくないけど。

「…有り難う。また逆戻りしたみたいだな」

「え?」

「少し、緊張がなくなっていたのに、また緊張しているようだ」

「それは…」

車という密室だし、部長だし…好きだと言われてる人だし…。抱きしめられてるし。何も感じない訳ではない。緊張はしてしまう。
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