恋の人、愛の人。
車を降り、エスコートされてエレベーターに向かった。

…レストランよ、レストラン。行くのはホテルの中のレストランなんだから。ご飯よ、それだけなんだから。

「期待してたのなら、私のミスかな…」

「…え?」

「さっきの続き」

手を取り繋ぎ直し、乗り込むとボタンを押した。エレベーターが上がり始めた。

「もしかしたら、君は、それでもいいと思ってくれていたのなら、私がその気持ちを遮断してしまったのかと思ってね?」

「え?あ、違います。そんな…期待とか…本当にそれは違います。…困ります」

はぁ、いくら何でも、いきなり関係は持たない。それは違う気がする。それでは関係性が…大人とはいえ、恋人にはならなくなりそうだ…。

「ん…そうだよな…まだそんな気になるはずがない。それどころか、それだと私の望まない…割りきった関係、ということに成りかねない」

はぁ…もの凄く丁寧に大人の話だ。こんな話…勝手に心臓が高鳴ってしまう。

「遅くなったから、夕食は何か少し食べてしまったかな?」

「え?いえ。恥ずかしいのですが、まだ何も…空腹のままです」

「そうか、随分待たせてしまったのは申し訳ないが…嬉しいな。私からの連絡を待っていてくれていたって事かな」

「んー、連絡を頂けるという事だったので、食べておくのもどうかと思いました。それだけの事です」

あ。あ、あ、それだけの事って…変に受け取らなかったかな。それだって、食事に行こうと言われていた訳ではないのだけど…。そうよ、連絡するとしか言われてなかったのに…。お酒だけの誘いだったかもしれないんだし。今思えば、御飯だって、勝手に思い込んでいたんだ。…子供?

チン。あ、…着いた。

「勝手に決めて、来てしまったけど構わなかったかな」

「はい」

どうしようかと相談されても困ってしまう。


「晴海です」

いい声で名前を告げると席に案内された。

「今夜は和食のディナーコースをお願いしてあ
。次はラーメンにつき合って貰おうかな」

「え?」

「…フ。格好つけて、こんなところに連れて来たけど…こんなところなんて言い方は失礼だな。私はラーメン好きなんだよ?」

「私も好きです!」

勢いよく言葉を返していた。

「そうか。では次はラーメンで」

「はい」

あ。…もう、次の約束をさらっと決められてしまった。


「今日ではないのだが、君とゆっくり話がしたいと思ってるんだ。ラーメンとは別だ。いつとは今は言えないが、またこうして会って欲しい」

お互いを知る為という意味かしら。

「私は特に変わった…話せるような経歴も何も持ち合わせていませんが」

「私の方に聞いて欲しい事、話しておきたい事があるんだ」

「…はい」

奥様の事とかかな…。解らないから先に勝手に想像しない方がいいわね。

「最初だけ高そうなお店に連れて行って、後は安く済ませようとしてるとは思ってないかな?」

…え。

「あ、いえいえ、そんな事は思ってもいません。滅相もないです」

はぁ…。何の話かなって考え込んでいたから誤解されちゃったかな。

「誤解ですから。私、本当にラーメンも…それからファミレスも好きなんです。ファミレスは単純に…長く話ができるから場所的に好きというか。長居するのはお店には悪いですが、周りを気にせず話せるところが好きなんです」
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