【短編】弱った君が愛おしい
────ガチャ
「おい口から生まれた口太郎、ゼリー食べられそうかい?」
いつもの翔吾は息をするように憎まれ口をたたくので、私は時々彼をそう呼んでいる。
「……」
あら。口から生まれた口太郎が黙ってるよ。こりゃそうとうきついんだろうね。
ニヤニヤする口元を押さえながら、ベッドに横になる彼に近づく。
汗をかいていて息は荒くて、すごく苦しそう。
いつも余裕ぶっこいた涼しい顔してるから、こう言う顔はレアだし、やっぱり面白くなってしまう。
お。
ゆっくりと、口太郎の目が開いた。
「…ブサイクのニヤケ顔で気持ち悪さ倍増だわ」
あ?
「てめぇこら、表でろ。今なら殴り合いでも勝てる」
「……っ、あぁ」
いつもならもっと言い返してくるけど、さすがに辛いらしくて、そう言った翔吾。
なんか…変な感じ。
黙って翔吾の様子を見てると、改めて翔吾が成長してることを感じる。
布団の下に隠れた高い身長も、おでこに置かれた大きなゴツゴツした手も。
体格は完全に大人の男の人に近づいてるけど、それがたかが風邪(風邪をひかない私に風邪の恐ろしさなんて知らない)に負けちゃうんだもんな。