秘め恋

 イクトとは高校まで同じ学校だった。人から話しかけられるまで何もしないでいるマサと違い、イクトは自ら社交的に振る舞い仲間を作っていくタイプで、その行動力と明るさはイクトを学年の人気者にした。校内のどこを歩いていても友達に声をかけられる。

 そのような学校生活を送っていれば当然と言うべきか、イクトには恋愛系の噂がひとつふたつ囁かれるようになり、中学生になる頃には彼女を作って別れ、また彼女を作り別れ……を、繰り返していた。高校生になってもその調子が続いた。

 いくら学年の人気者とはいえ、純愛主義とは限らない。そこはイクトも思春期真っ只中の一男子高生だった。恋愛感情など知らず欲望だけで女子を見ていた部分があった。

 マサにもその気持ちは理解できていたのでそのことでイクトを咎めることはなかったし、むしろ自分も女性に対して欲が先走る方だったのでイクトに対し妙な仲間意識すら覚えたものだ。男ってそんなもんだよな、と。

 高校生になりマサはバイトを始めた。自由に使える金が増えると身だしなみに気を遣った。それは無意識に女子の視線を意識したいわゆるモテるための手っ取り早い手段。

 その甲斐あってか、マサに興味を持って近付いてくる女子が一定数現れるようになり、マサにもついにイクト同様、彼女を作れる機会が何度も訪れた。

 初恋などという感情は知らず、ただ好かれるがままに相手を受け入れ、合わなければ別れた。そしてまた別の誰かと付き合う。

 デートは模範的なものだった。カップルに似合いのやけにカラフルなショッピングモールや女性受けするカフェ、雑貨屋、テーマパーク。休日私服でデートする時は、最後に必ず安ホテルに足を運ぶ。

 金がなければ夜の公園で彼女の肌に貪りついた。夜が作る遊具や高木の影はわりと穴場で、案外人目につかない。人の気配がすることもあるが、見られてしまうかもしれないというスリルが即興奮の材料に変換されるので問題ない。むしろそれが良かった。
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