秘め恋

 最後までイクトの計画に付き合いマサをボロボロに傷つけるつもりだったが、ここへ来てユミの気持ちは激しく揺れ、結局イクトの計画をダメにした。

「イクト、ごめんね。やっぱり私には無理だった。人を傷つけると自分が傷つけられたこと思い出してきついんだよ……」

 マサに体の関係を迫ったのは、半ばヤケになってのことだった。アオイに関心を持っているイクトに気付いてしまったから。

 そういう計画だったのは知っている。イクトはマサからアオイを奪うつもりだ。それだけならまだよかったのに、あれは本気で恋に落ちた言動だった。それが、ユミにとっては耐えられなかったのである。

 海では彼女のフリをしイクトと共謀して恋人っぽく振る舞ったが、キスはおろかそれ以上のことは何もしていない。イクトもこちらの好意に全く気付いていない。あくまでユミの片想いだ。

 それだけでもつらいのに、イクトがアオイと仲良くなろうと積極的に動くところを見ていたら、アオイにも同じ思いをさせてやりたいと思ってしまった。自分がマサに抱かれればアオイは傷つく。

 しかしマサに拒否され目が覚めた。かつて自分に嫌がらせをしてきた女子達と同じことを、アオイにもしてしまうところだった。

 よかった。マサ君が拒否ってくれて……。

 道を踏み外さなかったことに、安堵と虚しさを覚える。ユミはしばらく岩場の陰で座り込んだままでいた。



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