秘め恋
アオイはイクトに言った。
「マサが戻ってきたら、ちゃんと話聞いてみるよ」
「無理してない? 大丈夫?」
「大丈夫だよ。マサの考えを、彼の口からちゃんと聞きたい」
もう、アオイに迷いはなかった。そんなアオイを見てイクトは困ったように笑い、まいったと言いたげに手のひらを自分の額に当てた。
「そっかー。なんか、マサがアオイちゃんに本気になるの分かる気がする。ううん。マサだけじゃなく他の男も放っておかないでしょ。アオイちゃんっていいよね」
「褒めすぎだよ。だって私は……」
だって私はマサの友達だから。そう言おうとして言葉を飲み込む。今はマサと恋人同士の演技中だった。関心したようにイクトからまじまじと見つめられ何となく居心地が悪い。アオイはイクトから視線を外した。
「ユミちゃん遅いね。やっぱり様子見てくる。せっかくのイカ焼きも冷めそうだし」
適当を言って席を立とうとすると、イクトに腕をつかまれその場に留まらざるをえなくなった。やけに熱いイクトの手のひらにギクリとする。彼女持ちの男に構われるこの状況に不自然さを感じた。
「イクト君も一緒に探す? だよね。彼氏だし」
「まあそうだけど、もうちょっと話そうよ。せっかく二人になったんだしさ。マサのことで聞きたいことあったら何でも教えるよ?」
「気持ちだけもらっとくよ」
愛想笑いで、アオイはイクトに掴まれた手をそっと外した。
「マサのことは本人から教えてもらいたいから。気にしてくれてありがとね」
「そっか」
「ユミちゃん、心配だね。しつこいナンパに捕まってなきゃいいけど」