秘め恋
今度こそ席を離れようとしたアオイの手を、イクトはまたもや掴んだ。まさか二度もそうされるとは思っておらず、アオイは警戒心を強く抱いた。掴まれた手をそのままに、じっとイクトを見つめる。
「何のつもり?」
「アオイちゃん、俺のこと嫌い?」
「好きとか嫌いとかないよ。マサの友達という印象だけで……。手、離してくれる? ユミちゃんに見られたくない」
「いいよ別に。見られても」
「なっ……!?」
イクトの思惑が分からず面食らう。イクトは言おうかどうかと迷う視線を見せ、もったいぶった間の後、こう打ち明けた。
「俺達ホントは付き合ってないよ。ユミとはただの友達」
「え? でも、今日はダブルデートだって聞いてたんだけど……。どうしてそんな嘘を?」
イクトに掴まれたままの腕に、わずかに力が入る。アオイは軽く身を引いたがびくともしなかった。
「マサを安心させたかったから。俺に新しい彼女できたって知れば、お互い気兼ねなく楽しめるかと思って。とか言いながら結局自分でぶち壊してるんだからカップルのフリも無意味になったわけだけど。だからもうホントのこと言っていいかなーって。降参」
「そうだったんだ……」
これでようやく合点がいった。イクトの好みはアオイだとつぶやいたユミのことが。アオイは複雑な心境になる。
イクト君はこう言ってるけど、ユミちゃんはイクト君のこと好きだよね。
ユミはどんな思いでイクトの芝居に付き合ったのだろうか。想像すると胸が苦しくなる。