秘め恋
やはりこの人が好きだと強く思った。気を遣ってくれているのだと分かる。それでも、アオイの様子を見てマサはようやく心から笑うことができた。
「何それ。店長って店長ぽくないけどやっぱり店長なんだね。頼もしい」
「今さら知ったのー? なーんて。頼もしいのはマサの方だよ」
アオイはマサの頬からそっと手を離し、優しく彼を見つめた。
「イクト君の元から連れ出してくれてありがとう」
「当たり前でしょ。俺達一応カップルって設定なんだから。まあ、こんな男と付き合ってるフリなんてアオイは嫌だろうけど」
アオイの本音が聞きたくて、マサはつい話を掘り起こしてしまった。流してもらえたのだからそのままにしておけばいいのに、なぜか自分にとって不利な状況に己を追いやってしまう。過去を知ったアオイがどう感じたのか、やはり気になるのだ。
アオイは困ったように小さな笑い声を立て、その場にストンと腰を下ろした。その時水着のフレアスカートから彼女の白い太ももがのぞく。見ないようにし、マサは彼女の隣に腰を下ろしあぐらをかいた。
「怒らないで聞いてね。本当のこと言うと驚いたし、やっぱりショックだった」
「だよね」
マサは頭を鈍器で殴られたような心地になった。アオイは女性だ。遊び人の男にいい気持ちはしないだろう。分かっていても心が痛む。
「でもさ、それは私がマサのことを好きだからだよね。だから逆に知れてよかったんだよ。どうでもいい人のことなら何とも思わないし。それだけマサと仲良くなれてる証拠なんだって、明るく考えることにした」
「強いね、アオイって。そんな風に言ってくれる女子初めて」
「強くはないよ。私も、マサも、人は皆きっと弱さを持ってる。だから、秘密にしたい過去がない人なんてこの世にはいないんじゃないかな」