秘め恋
「私も遊びたいけど、でも……」
アオイは苦笑いでためらいを見せた。今日はダブルデートという名目があったし二人きりではなかったので付き合ったが、結婚しているのに男友達と二人きりで堂々と遊びに行くなんてだらしがないのではないか。そう言いたげなのが、マサにも分かった。
「冗談だよ。言ってみただけ。俺ら秘密の友達だもんね」
「ごめんね。私から友達になりたいって言ったのに……」
「いいよ別に。ま、またこういう機会があったらってことで」
平気なふりで言葉を交わしたが、マサの内心は穏やかではなかった。こうしてアオイといられる時間はもうすぐ終わってしまう。どうにかして一緒の時間を延長したいが、家に帰りたがる人妻を引き止める方法なんて知らなかった。
荷物を整理しながら砂浜を後にしようとしていると、アオイは切羽詰まった様子でマサを見つめた。
「ごめんマサ。先に帰っててくれる?」
残りわずかな時間だが帰りのドライブは楽しもう。そう思っていたマサはショックを受けた。何とかしてアオイと一緒に帰りたい。
「どうしたの。帰りどうするつもり?」
「電車とかタクシー使って帰るよ。今日はありがとね」
「この辺駅ないらしいよ。イベントシーズンだし、タクシーも捕まるかどうか……」
駅なら徒歩十分の位置にあるし、スマホで調べればタクシー会社だってすぐに見つかるだろう。何とかアオイに考え直してほしくて嘘をついたのだが、マサの思うようにはならなかった。アオイは頑なにマサを先に帰らせたがった。
「でも……」
「?」
「指輪失くしたの」
「それって、来る時はめてた結婚指輪?」
アオイはうなずき、悲しげにうつむく。