秘め恋
秘めた想い
アオイが結婚してるなんて、嘘だったらいいのに……。
地面に両膝をつき二つの手のひらで砂に埋め尽くされた地面を掻き分けるアオイの姿を、マサは苦い思いで見つめていた。
帰宅ラッシュの夕暮れとはいえ、気温はまだ高く海風の涼しさを楽しむ海水浴客がボチボチ残っている。
そういった人々は、泳ぐでもなく砂浜を右往左往するアオイの姿を遠巻きに見ては不思議そうな顔をしたり、若い男達だとナンパの相談をしていた。
旦那とは結婚してるんだから指輪の一つや二つくらい失くしたっていいでしょ。それで別れるわけじゃないんだし。
嫉妬と悲しみから、はじめは手伝う気が起きずアオイを見つめることしかできなかったマサも、じょじょに明るさを失っていく空と彼女の表情、そして、軽薄な男達がアオイに向ける視線を前に、何もしないでいることが次第にもどかしくなってきた。
「手伝うよ」
「大丈夫! 一人でやるから、マサは帰ってて」
「意外と頑固だねアオイは。こんな広い場所であんな小さい指輪、一人で見つけるってそうとう大変だよ」
「でも、もう出ないと帰り道混むんじゃない? 渋滞にはまったら運転大変だよ?」