秘め恋

「帰り、どこかでご飯食べてこ。お礼させて?」

 それでもアオイは、あからさまに帰宅を急かさず余裕を見せた。指輪を失くしたことで、気が動転しているのだろうか。早く帰りたい素振りを微塵も見せない。

「いや、お礼とかは別にどっちでもいいんだけど。指輪の件は俺も責任感じたし……」

 それは建前だった。責任うんぬんなどといった立派な考えは毛頭なく、ただ単にアオイといられるプライベートな時間を引き伸ばせたことを素直に喜んでいた。それだけだ。

「アオイのことだから、朝まで探すって言い出すかと思ってた」

「それはさすがに。それに、駐車場の時間もあるでしょ? 日をまたいだら延長料金かかるから申し訳ない」

「ああ、そういえばそうだったね」

「でも、ちょっとごめん。ご飯の前に、一応家に連絡しとくね」

 砂浜から駐車場に戻るまでの間、アオイは旦那にラインを送ったようだった。

 はじめは電話帳を表示させたのに、次の瞬間にはラインを開いていた。どうせ旦那に電話しても出ないと思って仕方なくラインを選んだのだろうか。それともマサの目を気にして音声通話を遠慮したのだろうか。

 カップルや夫婦の日常会話など、喧嘩と同じで犬も食わない。
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